放射性核種をプローブとする環日本海域での物質輸送解析
教 授 山 本 政 儀 自然計測応用研究センター |
我が国は,偏西風が卓越する極東アジアの中緯度に位置するため,風上側のアジア大陸から日本海を経由してさまざまな自然・人為起源物質が日本列島さらに北太平洋に輸送されています.大気中には,種々の放射性核種,宇宙線起源の7Be, 35S, 22Naや陸起源の222Rn, 210Pb, 40K, UやTh同位体,さらに大気圏核実験起源の半減期の長い90Sr, 137Cs, 239Puなどが広く分布存在しています.これらの放射性核種は,一定の物理的半減期で減少することに加え,供給源や供給量がよく把握されているため,種々の過程の時間や速度の変化情報を提供してくれる側面を持っています.
私達は,十数年前から石川県辰口町にある低レベル放射能実験施設(LLRL)屋上で大きな水盤を用いて大気からの降下物を採取し,その中に含まれている放射性核種,主に7Be, 35S, 210Pb, 40Kなどの長期観測を実施してきました.その結果,北陸の石川県は日本で降下量が最も多い地域で,かつ年間降下量の約60%が冬期(11月から翌年の2月)に集中していることなどが明らかになり,この現象が一過性のものではなく恒常的なものであることが分かりました.さらに,2年前から韓国のソウル,済州島,そして南洋の石垣から北の稚内までを含む13地点で降下物を採取し同様な測定を始めています.
本研究では,これらの長期・広域観測を継続しながら,日本海地域の降下量の多いメカニズムと時空間的変動の把握,さらに大陸からの黄砂等を含むエアロゾル汚染物質の長距離輸送機構の解明を進めています.