黄砂研究グループ

2006年春季 気球観測実施計画


観測課題:大陸起源の大気が海洋上で示す大気化学的変化、黄砂の変質を通して

観測の狙い:今回の観測は、観測の概略にも述べてあるように、中国のチンタオから日本海を横断するようにエアロゾルゾンデを放球させ、気球が浮遊している間にチンタオ(チンタオ気象局、中国)、アンミョンド(韓国気象庁、韓国)、福岡(日本、福岡大学)、および金沢(石川高専、日本)においてゾンデから送られてくる電波を受信し、中国沿岸部から日本列島にわたる地域のエアロゾル・黄砂の空間分布などを測るものです。

気球は、従来に比べ格段に遅い上昇速度で放球され、海洋上の接地境界層の中をゆっくり浮遊するように計画しております(ゆっくりした上昇速度はしばしばトラブルのもとになるためになるべく速い上昇速度で放球するのが普通です)。

あわせて、石川高専のキャンパスを借りて係留気球を使って接地境界層内の大気を主な対象として、エアロゾル・黄砂のサンプリングなどを行います。接地層内とはいえ、さまざまな要因によって自由対流圏の空気の混入が生じているはずでしかも海の影響をどのように受けているかを見つつ粒子の分析を行い、その結果を気球観測の結果と総合することでより深い理解を得ることが出来ます。ヨーロッパでは、「接地境界層内での大気物質の長距離輸送」が盛んに研究されており、比較的高度の低い大気領域においても、大気条件さえ整えば長距離輸送するとする研究結果も出されております。

係留気球を使った大気エアロゾルのサンプリングでは、電子顕微鏡による観察・実験以外の手法も想定して、いろいろなサンプリングを試みる予定です。関心のある方はぜひ見学していただきたいと思います。また、提案をしていただきたいと思います。


国際共同観測の観点では、国際プロジェクトSOLAS(Surface Ocean and Lower Atmosphere Study)/ADOES(Asian Dust and Ocean Ecosystem)と連携して実施されるものです。この観測では、
@ 黄砂変質の最も生じ安い場所の同定
A 大陸起源大気の海洋上での気質の変化を黄砂変質を通して理解
B 上記の事柄が日本列島の大気環境に与える影響を理解
C 陸上の接地境界層と洋上の接地境界層との間はどのようになっているかを理解
D 大陸起源の黄砂やエアロゾルがどのようにして日本海や東シナ海に沈着しているのか、また沈着量はどの程度なのかを推定
E 陸上大気と海洋上大気との差異を知るための手法としてどのような気球技術が求められるか、技術の将来展望
F 各種人工衛星のエアロゾル・黄砂観測のエアトゥルース
G ライダーなどのリモートセンシングのエアトゥルース
などの研究課題に答えることが出来ると考えております。

観測スケジュール(1,2日の出入りがあります):X-dayは5月6日の公算大です
4月
12日 石川高専で電波受信その他打合せ
15日-17日 係留気球搬入その後点検

その後、天候を見て係留気球の運用に慣熟するための作業実施
中国科学院大気物理研究所へ資材の搬出




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5月 気球観測の見学歓迎します 詳細はこちら

3日中国班北京に向け出発 到着後資材の点検と再梱包
4日午後チンタオに向け出発 福岡、金沢観測開始
   気球観測機器の北京への輸送、北京中国科学院大気物理研究所で持ち込み荷物の点検、北京中国科学院大気物理研究所に残置してある福岡大学の受信装置類の点検、アンテナの仮組み立ての後OPCゾンデからの信号送信と受信システムの受信テスト終了。
   モデムに記録した音声信号の再生テストおよびコンピュータへの取り込みテスト
   放球に関しては、おおよそ100メートル毎分の上昇速度で浮力調整することとしました。X-Dayの想定は、5月6日午後と概定しておりますが、天気とにらみ合わせて現地部隊の判断が優先されます。




5日チンタオにて放球準備作業 福岡、金沢観測継続

6日放球 福岡、金沢観測継続

7日予備日 福岡、金沢観測継続
   チンタオ現地時間午前8時ー9時(日本では、5月7日、午前9時ー10時になります)の時間に、
エアロゾルゾンデを放球しました。放球現地時間は1040、弱い東風(東向き?)で気球はほとんど真上に上がってゆく感じ。GPSは、調子悪かったが放球したら良くなった(おそらく、衛星の位置が悪く地上ではうまく計測できなかったが、上空に上がると水平線近くの衛星もしっかり見え始めたということと思います)。2006年、春季の気球観測実験と関連して、今日、チンタオで放球した、エアロゾルゾンデ観測は午後6時にて終了しました。(海に落ちました。)
   チンタオから放球された気球は、当初の設定どおり90メートル毎分の低上昇速度で上昇し、国際プロジェクト対応のテーマの一つであった「大陸と海洋の境界上の接地境界層の構造」を比較的うまく観測したと思われます。
   その後、強い高気圧の循環の中できわめてゆっくり移動し、チンタオの当方の沖合い150キロメートルあたりで対流圏を抜け出たと予想されます。その後も、気球はきわめてゆっくり東の方向へ移動しながら上昇し放球後約6時間後に30数キロメートルに達しバーストしたと考えられます。パラシュートで下降する際のわずかな時間西風に乗ったようで、信号が途絶えた地点は、チンタオからおおむね300km東に行ったところ(地上8キロ?)でした。風の予想が当たらず(当初は、対流圏上部まで達すれば、比較的強い西風に乗り半日程度で日本側の電波受信可能範囲に入ると単純に考えていた)、強い高気圧循環の影響下でふらふらする可能性を読みきれなかった点は、反省材料として今後に残りました。
   第2の目論見であった「東シナ海、日本海横断飛行による、大陸起源空気の変質の解明」のすべてを実施することは、そんなわけで、出来ませんでしたが、変質の初期段階は抑えられていると予想しております。


8日撤収 北京へ移動 福岡、金沢観測終了

   5月8日の石川工業高等専門学校での観測は、チンタオで気球を揚げたときの空気塊を観測することになりそうで興味深いものになりそうです。2006年、春季の気球観測実験と関連して、
昨日(5月8日)にて、係留気球観測を無事に終了しました。
合計3回行いました。(1回目:5月4日、2回目:5月6日、3回目:5月8日)


9日北京より帰国


観測参加機関およびグループ
金沢大学(自然計測応用研究センター、21COE、その他)、石川高専、熊本県立大学、福岡大学理学部、中国科学院大気物理研究所、チンタオ気象局、韓国気象局

観測連絡先(通知する)
気象研究所 酒井 哲、三上正男 そのほかADEC関係者、環境研究所 西川雅高、森 育子、富山高専  丁子哲治、富山環境科学センター 木戸瑞佳、三重大学  福山 薫、韓国気象庁アンミョンド観測所、韓国気象庁気象研究院、中国科学院安徽光学精密機械研究所(周 軍)、中国科学院寒区乾区環境与工程研究所(沈 志宝)、中国科学院気象研究院(張 小曳)、ADEOS関係者、ACE-Asia/ABC関係者
      

横断気球観測のイメージ
気球は、観測データを電波で地上に送りながら西風に乗って移動してゆく。一つの地上基地から気球を監視できるのは200kmから300kmなので、一つの受信局のみで電波を受けても洋上の様子を捉えきれない。多点で受信することが出来れば広い範囲の情報が得られる。