北國新聞掲載記事




2007年(平成19年)3月18日(日)  北國新聞 石川政経 4面

社説
日本海域環境調査
リードする金大へ支援を


 日本海域における環境調査をリードしている金大が、次の展開として海外での研究・交流の拠点となる「分室」を中国、韓国、ロシアの大学・研究機関に設置し、国際的な研究機関としての地位を目指すことになった。それには文科省が新年度から始める次の段階の「グローバルCOE(卓越した研究拠点)プログラム」に採用されると有利であり、中韓での分室は二月から運営が始まっている。金大のこれまでの実績が評価されて採用されることを強く望むが、地元の支援も大事だ。
 金大の環境調査は、大学の存在をかけて脳研究とともに取り組んでいるものであり、、文科省が〇二年度から実施している「21世紀COEプログラム」に採用され、学内組織の自然計測応用研究センターが推進母体になって@黄砂や大気による化学物質の輸送やその毒性A放射能を利用しての環境解析B日本海の重油汚染などを進めてきた。
 世界が注目する計測技術を有しているのが金大の強みだ。低レベルの汚染物質を検知する技術や、黄砂や化学物質を気球を使って偏西風の中でとらえる技術を持っているのだ。それが今年度で終了するため、今度は文科省がポストCOEプログラムとして新に始めるグローバルCOEプログラムにも乗ろうというわけである。
 新たなプログラムの対象は減らされる代わり手厚く支援されることになっており、採用されるのを目標にして自然計測応用研究センターと、やはり学内組織で文系の研究者が多い「日本海域研究所」とを新年度に発展的に統合する。この統合には大きな意味がある。
 日本海沿岸国を見ると、国ごとに汚染防止の基準が違う。そのために日本海で起きている環境変化は世界一激しいといわれる。この現状を、技術供与を通して基準の差が小さいヨーロッパ並みのレベルに近づけ、話し合いがスムーズにいくテーブルづくりのための統合なのだ。
 すなわち、文系の研究者の参加で各国の研究者との連携を強化し、研究者のレベルから基準の統一をそれぞれの政府に働きかけていこうというわけである。優れた計測技術を持つ金大ならではのビジョンだ。






2007年(平成19年)3月15日(木)  北國新聞朝刊 社会1 35面

中韓ロに研究拠点 金大歯角海外分室設置
日本海域の環境調査強化


 21世紀COEプログラムなど多くの分野で国際的な共同研究を進める金大は、海外での研究拠点となる「分室」を、中国と韓国、ロシアの大学・研究機関に設置する。共同研究の円滑化や留学による若手研究者の育成を図るほか、将来的には学生同士の交流や現地の日本企業との共同セミナーなども展開し、広く海外との交流拠点とする。分室を足掛かりに、国際的な研究機関としての地位確立を目指す狙いだ。

国際機関の地位確立狙う

ロシア:ウラジオストク(ロシア科学アカデミー極東支部)
中国:北京(中国科学院大気物理研究所)
韓国:釜山(釜慶大学)

 金大が海外に分室を設けるのは初めて。同大が進めてきた21世紀COEプログラムのうち、今年度で終了する「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」プロジェクトの研究成果の一つとして開設が決まった。
 分室が設置されるのは中国科学院大気物理研究所(北京)と釜慶大学(釜山)、ロシア科学アカデミー極東支部(ウラジオストク)。中韓では二月から運営が始まっており、ロシアも新年度初頭からの稼動を予定している。
 いずれの分室でも当分の間、プロジェクトに留学生として参加した当地の若手研究者や縁の深い金大の研究者が現地スタッフとして勤務する。
 各分室では、このプロジェクトが来年度始まる次段階の「グローバルCOEプログラム」に採択されることを目標に、▽黄砂や大気による化学物質の輸送やその毒性▽放射能を利用しての環境解析▽日本海の重油汚染、などについて引き続き共同研究する。
 また、同プロジェクトの事実上の推進母体「自然計測応用研究センター」は、同じ学内組織で文系教官が多く所属する「日本海域研究所」と統合し、新年度から「環日本海域環境研究センター」に改組する。研究には文系理系の枠を超えた知識が必要との考えから両者の関係を強化し、研究者の語学習得や文化教育を支援する。
 21世紀COEプログラム拠点リーダーの早川和一教授(大学院自然科学研究科)は「日本海周辺は世界的にみればごく小さな範囲だが、ここで起きている環境変化は世界一激しい。次段階プログラムを成功させるためにも海外分室を最大限に活用したい」と話した。






2007年(平成19年)3月15日(木)  北國新聞朝刊 県内総合 22面

のと かなざわ かが ニュース石川

研究拠点に空き家開放
輪島の金蔵学校設置 ゆっくり滞在、調査
金大自然学校分室に


 輪島市町野町金蔵地区の活性化に取り組むNPO法人やすらぎの里・金蔵学校は十八日、地区内の空き家を生かし、金大生ら学生の調査研究拠点として活用してもらう「金蔵自然文化研究所」を開設する。金大が珠洲市に設置している「能登半島・里山里海自然学校」の分室に位置付け、過疎化に悩む地区の交流人口の拡大、魅力発信につなげたい考えだ。
 金蔵地区は、能登町と接する輪島市東部に位置する棚田集落で、古くから五つの寺を中心に栄えた。室町期に能登守護職畠山氏の不興を買い、一五二七(大永七)年、全村焼き打ちに遭ったが復興した。この特異な歴史や豊な自然が、民俗学、生態学、文化人類学などの研究対象として注目され、昨年度は県内外八大学が調査研究で訪れている。
 このため、金蔵学校では、学生らにゆっくりと滞在できる環境を整え、地区の自然環境や歴史文化の研究に励んでもらう目的で研究所の開設を企画。趣旨に賛同した市外在住者から、床面積約二百平方メートルの木造二階建て住宅を無料で借り受けることができた。
 同地区では、十二年ほど前から人口流出が加速し、家屋百軒のうち二十五軒が空き家という。人口百六十四人の半数以上を六十五歳以上が占め、金蔵学校の石崎英純理事長は「訪れる学生と住民が交流して、にぎわいを生み、市内外へ情報が発信される学びやにしたい」と意欲を語った。
 現地で十八日、金大の中村浩二教授(生態学)、地元在住で金大「角間の里山自然学校」駐村研究員の井池光夫氏らが出席して開設の除幕式が行われる。

写真=金大生らに開放される空き家=輪島市町野町金蔵






2006年(平成18年)12月20日(水) 北國新聞朝刊 地方社会 19面

ワイド石川
金大でフォーラム 「ナホトカ10年」 重油禍語り継ぐ
汚染克服の成果や体験語る


 ロシアタンカー重油流出事故の教訓を語り継ぐフォーラム「ナホトカ号重油流出事故から10年、私たちは何を学んだか?」(北國新聞社特別協力)は十九日、金大角間キャンパスで約百人が参加して開かれた。汚染浄化の研究に取り組んできた研究者や重油回収にあたったボランティアらが当時の状況や研究成果を報告し、世界各地で流出事故が相次ぐなか、重油禍を風化させない決意を新たにした。
 フォーラムは一九九七(平成九)年一月の事故から十年の節目に合わせて、日本海の環境保全や資源利用のための調査研究を続ける金大21世紀COEプログラムが企画した。開会にあたり、同プログラムリーダーの早川和一金大大学院自然科学研究科教授が、ロシアの油田開発や中国の石油需要増で日本海の物流が盛んになり、事故の危険も増しているとし、「研究の記録を残し災害防止につなげなければならない」と語った。
 フォーラム実行委員長の田崎和江金大大学院教授は、油まみれの砂をきれいにする際、温めた海水に入れる方法が効果的だったことや、回収しきれなかった重油が自然界に存在する分解菌の作用で浄化されたことを報告した。
 重油回収に参加したボランティアの体験報告では、加賀市や志賀町で回収に当たった白山市鶴来町地区ボランティアの連絡協議会長の松枝章さんが「行政はボランティアの受け入れや情報収集を徹底してほしい」と思いを語った。「回収中(油の揮発成分で)目が痛くなった」「初めは何も分からず素手で作業した」といった被災地である輪島の高齢者の体験談も紹介され、事故当時小中学生だった大学生らが熱心に耳を傾けた。
 金大留学中に汚染浄化の方法を研究したインドネシア・バンドン工科大の理学博士S.K.ハイルンさんも参加し、「金大で行った重油分解細菌の研究が、母国の汚染浄化に役立った」と語った。

舞踊も披露

 会場の自然科学研究科棟玄関ロビーでは、前衛舞踊グループ、金沢舞踏館による重油との戦いをテーマにした踊りも披露された。油の回収を行う男性が重油の中でもだえる様子が演じられ、参加者に事故当時の悲惨な状況を思い起こさせた。

写真=母国インドネシアでも生かした研究成果について語るハイルンさん
   重油との戦いをテーマにした舞踊
   ナホトカ号から得られた知恵や研究成果が報告されたフォーラム=金大角間キャンパス





2006年(平成18年)12月19日(火) 北國新聞夕刊 6面

重油禍、風化させない
ナホトカ号事故から10年 金大でフォーラム


 金大21世紀COEフォーラム「ナホトカ号重油流出事故から10年、私たちは何を学んだか?」(北國新聞社特別協力)は十九日、金大角間キャンパス自然科学研究科棟で始まった。事故以来重油に関する研究を続けてきた金大研究者や油回収に携ったボランティアらが研究成果や体験談を語り、重油禍を風化させないことを確認し合った。
 フォーラム実行委員長の田崎和江金大大学院自然科学研究科教授らが、海が荒れる冬の日本海で回収作業が難航したことや、石油を分解する菌の働きについて発表した。事故当時の北國新聞の紙面も紹介され、真っ黒な油で埋め尽くされた海岸や、油まみれで回収作業にあたる人々の姿が来場者に被害の深刻さを生々しく伝えた。





2006年(平成18年)12月19日(火) 北國新聞朝刊 社会1 35面

「金大発」の研究世界の海を浄化
インドネシア元留学生・ハイルンさん ナホトカ号事故から10年


 ロシアタンカー重油流出事故から十年の節目に合わせ、金大角間キャンパスで十九日に開かれるフォーラムで、インドネシアの女性が金大留学中に学んだ重油分解法と、それを母国の汚染浄化に生かした成果を報告する。産油国インドメシアでは重油流出被害が深刻化し、女性は被災地の金大で研究が進んでいることを知り、三年間留学していた。フォーラムはこの十年間で得られた研究成果や教訓を世界の海の浄化につなげることを確認する場となる。(5面に関連記事)
 一九九七(平成九)年一月に発生したナホトカ号重油流出事故の被害や教訓を後世に伝えようと、汚染された海岸の砂や油まみれの回収用ひしゃく、研究論文などを集めた展示が十八日、金大角間キャンパス自然科学研究科棟で始まった。当時の悲惨な状況を伝える展示物の数々に、事故当時幼かった学生らも関心を寄せている。展示は二十三日まで。
 十九日午後一時から開かれるフォーラム「ナホトカ号重油流出事故から10年、私たちは何を学んだか?」(北國新聞社特別協力)では、金大の研究者や重油回収にあたったボランティアらが事故から得られた経験や研究成果を発表する。

スマトラ沖地震で重油流出 粘土鉱物で分解促進
きょうフォーラムで報告
写真=19日フォーラムに参加するハイルンさん。数々の展示物を前に、金大での研究の意義をかみしめている=金大キャンパスの自然科学研究科棟玄関ホール

 フォーラムに参加するのは、バンドン工科大で研究する理学博士のシティ・ホディジャ・ハイルンさん(三七)。インドネシアでは、石油堀削による土壌汚染や、自然災害を受けた油田からの油流出などが頻発し、ハイルンさんはナホトカ号事故以降の重油分解に関する金大の豊富な研究蓄積に目を留め、二〇〇一(平成十三)年に国費留学した。
 ハイルンさんは同大大学院自然科学研究科の田崎和江教授らとともに、県内各地の海岸で汚染された砂を採取して、石油分解菌を研究。このなかで、粘土を構成する微細な物質「粘土鉱物」が重油を分解する菌の成長を促進し、浄化が早まることを突き止めた。
 ハイルンさんが帰国した直後の〇四年十二月末には、スマトラ沖地震が発生。津波が油田を襲い、海水と混ざり合い分解されにくくなった油が、海岸や近くの農地などの土壌を汚染した。ナホトカ号事故と状況が共通していることに気づいたハイルンさんは、インドネシア政府に金大での研究成果を提言。重油の浄化促進に、粘土鉱物が生かされたという。
 ハイルンさんは、被災地にある大学として研究を続ける金大の水準の高さを強調し、「田崎先生の研究は非常に実践的で学ぶところが多かった」と振り返る。
 経済発展が続く中国、インドの石油の需要拡大で海上輸送するタンカーも増え、事故の可能性はますます大きくなっている。田崎教授は「ナホトカ号事故後の研究が国外でも生かされたことが、最も大きな成果の一つ」とし、今後の国際的な研究交流進展へ期待を寄せている。





2006年(平成18年)12月18日(月) 北國新聞夕刊 6面

汚染砂、悪臭の重油・・・・ ナホトカ号事故から10年
事故当時生々しく 関連品を展示


 石川県をはじめとする日本海沿岸に甚大な被害をもたらしたナホトカ号重油流出事故から来年一月で十年となるのを機に、重油で汚染された県内の海岸の砂や、回収に使われた道具などを集めた展示(北國新聞社特別協力)が十八日、金大角間キャンパス自然科学研究科棟の玄関ホールで始まった。いまだ悪臭を発する重油のサンプルや、真っ黒な油で埋め尽くされた事故直後の海岸のパネルなどが、事故当時の状況を生々しく伝えている。

金大角間キャンパス

 展示は、十九日に開かれる金大21世紀COEフォーラム「ナホトカ号重油流出事故から10年、私たちは何を学んだか?」に合わせて行われた。重油を分解する細菌や、海水と混ざり合った重油の性質などに関する研究者の学生らの論文、当時の輪島市の小学生の感想文なども並べられた。
 展示準備に携った金大大学院自然科学研究科二年の今西弘樹さん(二五)は「県外出身なので事故についてはテレビでしか知ることができなかったが、展示品を見て油の回収がいかに大切だったか伝わってきた」と話した。
 展示は二十二日まで。

写真=事故当時回収された重油などが並ぶ展示会場=18日午前9時40分、金大角間キャンパス自然科学研究科棟





2006年(平成18年)10月10日 北國新聞夕刊 9面

「放射能は」分析急ぐ 北朝鮮 核実験
県が大気、土壌調査 情報収集、監視を強化

 
 北朝鮮の地下核実験発表を受け、石川県は九日、災害対策本部連絡会議を開くなど、情報収集に努めた。核実験は事実であれば放射能拡散の恐れもあることから、県は十日も大気や水の放射線量を測定し、監視を強めた。

写真=放射能の監視強化などを確認した連絡会議=9日午後3時半、県庁

正午現在異常なし
 
 県には九日午後零時三十九分、消防庁から第一報が入った。
 同午後三時半に開かれた災害対策本部連絡会議では、谷本正憲知事が「国際社会の平和への挑戦としか言いようがない。県民の安全・安心を守るため対策を講じる必要がある」と述べ、調査対応などを確認した。
 県は十六ヵ所にある原発用観測局で大気中の放射線量を注視するほか、各地の飲料水や土壌の成分分析も行っている。いずれも十日正午現在まで異常は確認されていないが、県は核実験が行われていれば、二十四−三十時間で石川県にまで放射線が到着する可能性があるとみており、当面は定期的な調査を続ける。

金大も観測

 北朝鮮の核実験の発表を受け、金大の研究者も放射能観測や地震波の分析を強化した。
 金大自然計測応用研究センター低レベル放射能実験施設(能美市)の小村和久教授(環境放射能学)は大気中の粉塵を採取する装置を一台増設した。金大大学院自然科学研究科・理学部の平松良浩助教授(地球物理学)によると、防災科学技術研究所の地震観測システムで石川県内でも核実験に伴うものとみられる地震波をしていた。

漁業関係者 風評被害を懸念

 日本海などで操業する漁業関係者らにも困惑が広がった。
 遠洋イカ釣り漁船約二十隻が所属する能登町の小木漁協職員、秋脇元さん(三三)は「海が汚染されたら困るし、核実験はやめてほしい」と訴えた。富山県漁連も漁船の安全確認に追われた。担当者は「消費者が海産物に手を出さなくなるのでは」と風評被害を心配した。

「どんな状況でも会いに行く」寺越友枝さん

 北朝鮮の核実験実施発表について、平壌に暮らす寺越武志さん(五七)=志賀町出身=の母友枝さん(七五)は九日夜、金沢市内の自宅で「北朝鮮をめぐる問題は最悪に近い状況を迎えたが、どれだけ厳しい情勢になっても母親として武志に会いに行く気持ちに変わりはない」と話し、訪朝を続ける考えを強調した。
 先月末に訪朝した友枝さんによると、面会した武志さんとの間で核実験についての話題は一切なく、北朝鮮は核実験に成功を発表した後も武志さんから特に連絡はないという。

速報版に見入る通行人=9日、北國新聞会館前
本社が速報版 北國新聞社は9日、北朝鮮の地下核実験を伝える速報版を、本社や県内各支社、総支局に張り出した。掲示板周辺では、通行人らが足を止めて記事に見入った。





平成18年9月24日(日) 北國新聞朝刊 県内総合27面

大気汚染でシンポ 東大で金大COE

 金大21世紀COEプログラム「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」第五回国際シンポジウム「東アジアの大気環境汚染と健康・生態系への影響」は二十三日、東京都文京区の東大弥生講堂で開かれ、韓国、中国、ロシアの六人を含む研究者七十人が、各国で起きている大気汚染の状況や発生源についての研究成果を報告した。





2006年(平成18年)9月4日 北國新聞朝刊

薬剤散布をどう考える 安全な農薬はない
金大大学院自然科学研究科 早川和一教授(環境衛生化学)


 今回、県が散布したのは「トレボン乳剤」と呼ばれる農薬で、アメリカシロヒトリの神経機能を低下させて殺す薬だ。毒性はあまり強くはないが、動物実験では、発がん性があり、細胞の代謝を促進する甲状腺ホルモンの分泌に悪影響をもたらす疑いがあることが確認されている。
 高齢者や乳幼児、化学物質化敏症の人など抵抗力の弱い人が薬剤にさられた場合、目に傷みを感じたり、吐き気を覚えるケースもある。
 そもそも虫だけを殺し、人体に全く害のない安全な農薬はないとの認識を持つべきだ。住民の安全のためにも、孵化し始めた五月ごろ、葉についたアメシロを捕殺することが大切だ。県や市は薬剤に頼らず、こまめに公園や街頭の樹木を見回り、駆除する手間を惜しんではならない。税金で住民の健康を害する恐れのある薬剤散布を安易に行うことは行政として取るべき手段ではなく、捕殺を基本とする金沢市の姿勢は正しいと思う。
 人通りの少ない未明に県中央公園周辺などに限定して薬剤散布した県の判断は理解できるが、これをよしとして、散布範囲を住宅地などにむやみに拡大することは絶対に避けなければならない。街なかの緑は人の手をかけて初めて守ることができる。薬による安易な駆除は必要最小限にとどめるべきだ。





2006年(平成18年)6月6日(火) 北國新聞朝刊 地方社会 19面

深海掘削を紹介 金大でキャンペーン

 海洋研究開発機構を日本掘削科学コンソーシアムの第十一回「地球の記憶を掘り起こせIODP大学&科学館キャンペーン 金沢大学・・・・・海洋底を科学しよう・・・・・・」は五日、金大角間キャンパスで開かれ、国際的な巨大科学プロジェクトである統合国際深海掘削計画(IODP)について第一線の研究者が紹介した。
 金大の荒井章司教授をはじめ、文部科学省や海洋研究開発機構の関係者が、IODPの目標やわが国の科学戦略、乗船研究、地球深部掘削船「ちきゅう」について、スライドを交えて語った。






2006年(平成18年)5月31日(水) 北國新聞朝刊

枝の広がり衛星で把握 写真を「マップ」に変換
森林管理のデータに 
村本教授と久保助手 画像処理プログラムを開発


 金大大学院自然科学研究科の村本健一郎教授と久保守助手は、高い識別能力を持つ衛星で撮影した画像を処理して、密集した森の木々一本一本の枝の広がり(樹冠)を把握できる手法を北陸電力と共同開発し、特許を出願した。航空写真などを元にしていた従来に比べ、より精度の高い情報を簡単に「マップ」にでき、森林管理や環境評価に有用なデータとなりそうだ。
 地上の1メートル四方まで拡大して識別できる米国の商用衛星「IKONOS(イコノス)」が撮影した画像を、村本教授らが独自開発した画像処理プログラムにかけると、上空から見た広葉樹、針葉樹など一本一本の樹木の輪郭や種類が色分けされた「樹冠マップ」が作成される。密集した紅葉樹林では枝の広がりがいびつなため、従来の手法では樹冠の輪郭をとらえるのは難しかった。
 樹冠マップは、間伐などの作業計画に活用できるほか、環境保全策を考える上での指標にもなるとみられる。村本教授は「マップによって森の活性度をより詳しく調べることができ、地球温暖化にかかわる二酸化炭素の森林吸収量を正確に算定することも可能になる」と話している。





2006年(平成18年)5月23日 北國新聞朝刊 総合7面

ポストCOEは150拠点 文科省 大学支援策、来年度から

 大学に世界最高水準の研究教育拠点を育てようと、二〇〇二年度から実施している財政支援策「21世紀COEプログラム」に代わる新たな支援策(ポストCOE)について、文部科学省は二十二日、支援対象として〇七年度から計約百五十拠点を選定、各拠点をそれぞれ五年間支援することを中教審に提示した。
 現在のCOEが二百七十四拠点なのに比べ、数を絞り込む一方、一拠点当たりの額を増やして手厚く支援するのが特徴で、国際的な競争力をつけるのが狙い。今後、中教審の議論を踏まえて、正式決定する。
 文科省によると、ポストCOEの支援対象は、生命科学や社会科学など現在のCOEと同じ分野が基本。現在の二百七十四拠点も含め、すべて新たに公募して決める。複数大学が連携した拠点作りも認める。
 COEの実施後、教員の論文数が約一割増え、他大学や企業との共同研究も進むなどの成果が表れたというが、拠点のうち国立が約七割、旧帝大が約四割と、研究施設などの整った伝統校が大半を占めている。





2006年(平成18年)5月4日(木) 北國新聞朝刊 社会28面

ディーゼル微粒子 尿で吸入量判定 喫煙などの影響受けず
金大大学院 早川教授ら


 ディーゼル微粒子をどれだけ吸い込んでいるかが判定できる超高精度の尿検査を、金大大学院自然科学研究科・薬学部の早川和一教授(環境衛生化学)と鳥羽陽講師が発明し、特許を出願した。全国各地の大気汚染訴訟でもディーゼル排ガスの健康被害が問題視される中、喫煙などの要因を除外してディーゼル微粒子だけの影響度合いを解明するのに威力を発揮するという。

写真=ディーゼル微粒子を吸い込んだ人の尿に特徴的な物質を検出する鳥羽講師(手前)と早川教授=金大自然科学棟


 この方法は、ディーゼル微粒子だけに含まれる「1−ニトロピレン」という物質を人が吸い込んだ際に、体内で変化して尿から排出される数種類の物質を検出する。早川教授らは、非常に微量しか含まれていない物質を検出するため、尿中の邪魔な物質を取り除くなどの処理をすることで、世界で初めて人の尿から検出することに成功した。
 大気中を浮遊する粒子状物質の多くがトラックなどのディーゼル車から排出されており、肺がんやぜんそくなど呼吸器疾患の原因とされる。尼崎や名古屋、東京などの公害訴訟でも、ディーゼル微粒子による健康被害が取り上げられてきた。
 ただ、大気中に浮遊しているディーゼル微粒子そのものを測る調査は行われても、人が吸い込んだ量を測る方法がなかったため、どれだけ吸ったら健康被害が現れるのかは解明されていない。
 早川教授らは、ディーゼルの燃焼で特徴的に出てくる「1−ニトロピレン」に着目。たばこや工場排煙、焼き肉などの影響を受けることなく、ディーゼル微粒子を吸い込んだ量だけを測定できるようになった。早川教授は「多くの人の尿を調査することで、ディーゼル微粒子の健康影響についてわかるだろう」と話している。





2006年(平成18年)3月9日(木) 北國新聞朝刊 19面

金大COEがシンポ

 金大21世紀COEプログラム「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測−モニタリングネットワークの構築と人為的影響の評価」による第四回国際シンポジウム(若手研究者向け)は八日、金沢市の金沢エクセルホテル東急で三日間の日程で始まり、国内外の研究者ら約三百人が最新の研究成果を報告、今後の研究交流を申し合わせた。






2005年(平成18年)1月12日(木) 北國新聞朝刊 1面

ナホトカ号事故から9年 重油の海岸ようやく浄化
金大大学院チーム確認


 9年前の重油流出事故で真っ黒に汚された海岸がようやく浄化されたことを、金大大学院自然科学研究科・理学部の田崎和江教授(地球環境科学)らの追跡チームが確認した。岩場にこびり付いた重油に石油分解菌が生息し、無害な「ろう」成分だけになっていた。石川県内を襲った重油禍が県民の記憶から遠ざかる中、長い年月をかけて自然の力で本来の美しさが取り戻されたといえる。

自然の菌が分解 無害な「ろう」に
 
 金大の調査チームは昨年十月、福井県三国町の海岸を調査した際に、岩場にこびり付いている重油とみられる黒色の物質を採取した。パリパリのかさぶた状になり、岩からはがれやすかった。分析の結果、ろうそくの主成分のパラフィンが確認できた。岩とのすき間部分を電子顕微鏡で観察したところ、球状の石油分解菌が幾つも見られた。田崎教授は、分解菌が重油を分解して増殖し、分解しきれない成分のパラフィンだけが最後に残ったとみている。
 一九九七(平成九)年一月八日、島根県沖の日本海で沈没したロシア船籍タンカー「ナホトカ」の船首部分が福井県三国町に漂着。石川県内は加賀から能登外浦にかけての海岸線が重油に汚染され、自衛隊やボランティアも含め、大勢の人が重油をひしゃくでくむ人海戦術で回収した。
 田崎教授は翌二月、旧富来町の海岸で採取した重油混じりの海水の中から石油分解菌をいち早く発見し、その後の培養実験でシュードモナス菌の一種と明らかにしている。
 化学処理剤の投与よりも自然の力による浄化を提唱してきた田崎教授は「取りきれない重油は菌が分解してくれるだろうと予想はしていたが、追跡調査で明らかにできてホッとしている。これで無害になったと言えるだろう」と話している。

石油分解菌
石油を分解して無害化する最近(バクテリア)。石油流出の際には栄養剤を散布して石油分解菌を増やしたり、分解菌の入った製剤をまいたりする浄化方法もあるが、ナホトカ号重油流出事故では、科学者の間から「生態系に悪影響を及ぼす可能性がある」との意見が上がり、自然の浄化能力に任された。






2005年(平成17年)11月29日 北國新聞朝刊

森林の役割を考える
金沢で温暖化防止シンポ


 金大EMEA(東アジアの環境モニタリング)プロジェクトの公開シンポジウム「地球温暖化防止と森林の役割」=写真=は二十八日、金沢市のKKRホテル金沢で開かれ、県内外の研究者が最近の研究成果を報告した。
 金大EMEAプロジェクトの村本健一郎代表が、地上や衛生からの観測によって東アジアの環境変化を把握する同プロジェクトについて説明したのに続き、国立環境研究所社会環境システム研究領域長の原沢英夫氏が、温暖化がもたらす被害の可能性や、防止策について述べた。
 早大人間科学学術院の森川靖教授は、森林の造成によって炭素を固定する取り組みを紹介し、金大大学院自然科学研究科の鎌田直人助教授はクマの異常出没を引き起こした北陸の森林衰退の原因について調査結果を報告した。
 シンポジウムは金大21世紀COEプログラム「環日本海域の環境計測と・長期・短期変動予測」の共催で、「ふるさとの森 再び」推進委員会が協賛している。二十九日は中国、韓国の研究者も加え、金大角間キャンパスで講演が行われる。






2005年(平成17年)10月4日(火) 北國新聞朝刊 1面

ヒトの6倍巨大ヘモグロビン
血液の秘密にメス 九十九湾だけに生息 マシコヒゲムシ


 能登町の九十九湾にだけ生息する糸状の生物「マシコヒゲムシ」の血液に含まれる巨大なヘモグロビンの構造を金大と京大の研究グループが世界で初めて解明し、米科学アカデミー紀要(電子版)に四日発表した。ヘモグロビンは酸素を運ぶ赤色の物質で、マシコヒゲムシのものはヒトの約六倍も大きかった。生物の進化を解明する上で重要な発見といえる。

金大、京大グループ 進化の解明へ前進

 この研究は金大大学院自然科学研究科・理学部の福森義宏教授、中川太郎研究員、同大自然計測応用研究センターの笹山雄一教授らが行った。
 マシコヒゲムシは体長約十センチ、直径約一ミリ。口も胃も肛門もなく、何も食べずに生きている非常に珍しい動物で、体内に共生させた細菌から栄養を吸収している。この細菌は海底から出る硫化水素をエネルギー源としており、巨大ヘモグロビンはマシコヒゲムシが生きるために必要な硫化水素を同時に血液で運べるような構造となっていた。
 構造解析は兵庫県の大型放射光実験施設「スプリング8」で行った。福森教授は「能登の海にひっそりとすんでいたマシコヒゲムシの秘密を世界最新鋭の施設で解き明かすことができた」と話している。






2005年(平成17年)9月25日 北國新聞朝刊 25面

環日本海の森林変動を衛生のデータで解析 村本健一郎 (金沢大学工学部教授)

 ことし11月、日中韓の研究チームが金沢大学に集まり、環日本海地域の森林の植生調査についての研究発表を行います。
 人工衛星による観測データなどを使い、地球規模で進む温暖化防止策を共同で探るこのプロジェクトは、1999年に始まり、今回で5回目の合同会議を開くこととなりました。
 ご承知のように、人口が増え、人間の活動の活発化で石油などのエネルギー消費も増え、二酸化炭素の発生量も増えています。一方で二酸化炭素を吸収する森林が減少しており、二酸化炭素は急激に増加しています。
 地球の温暖化と密接な関わり合いを持つ森林の変動は、このような複雑な環境要因の結果として起きています。したがって、森林の監視は地球環境の総合的な変動の指針として欠かすことができません。
 私たちの5年余りのプロジェクトでは、地上での現地調査とともに、人工衛星によるデータを解析、数値化することに力点を置いてきました。3ヵ国がそれぞれの知恵を出し合い、将来にわたるデータベースが構築されつつあると言ってよいでしょう。(むらもと・けんいちろう=電子情報科学)

温暖化と森林の最新研究もち寄り、11月28日に金沢で公開シンポ

 「地球温暖化防止と森林の役割」をテーマにしたシンポジウム(金沢大学21世紀COEプログラム共催、「ふるさとの森 再び」推進委員会協賛)が、11月28日(月)午後1時半から、金沢市大手町のKKRホテル金沢で開かれます。入場無料。
 当日は原沢英夫・国立環境研究所領域長、森川靖・早稲田大教授、鎌田直人・金沢大助教授の皆さんが講演を行います。主催および問い合わせ先は、金沢大学EMEA(東アジアの環境モニタリング)プロジェクト=076(234)4895(久保)=。





2005年(平成17年)9月22日(木) 北國新聞朝刊 1面

広島、長崎原爆投下から60年  被ばくの強さ 銀で解明
遺品の勲章から検出 小村金大教授が成功
数千倍の感度で原爆中性子測定


 広島原爆で被爆した銀製の勲章から放射性元素「銀108」を検出することに、金大自然計測応用研究センター低レベル放射能実験施設長の小村和久教授(環境放射能学)が成功した。銀108の分析により、放射線の一種である原爆中性子の測定感度が、従来に比べ三けた以上高くなる。六十年前に被ばくした者が浴びた放射線の強さを解明する上で、非常に重要な手がかりとなる。
 研究成果は二十七日から金沢市観光会館などで開かれる日本放射化学会年会・放射化学討論会(実行委員長・中西孝金大教授)で発表する。
 銀108の検出に成功した勲章は、広島平和記念資料館から借り受けたもので、爆心から四百五十メートルにあったとされる。このほか、被ばく者が着けていた真ちゅう製の指輪や、刀のつば、長崎原爆資料館から借り受けた真ちゅう製のスプーンや懐中時計でも、微量の銀108が検出できた。
 銀108は、普通の銀が強い放射能を浴びた時に生まれる放射性元素。原爆にさらされた物質に含まれている量を分析することで、その物質がどれぐらいの強さの放射能を浴びたのかを逆算して求めることができる。
 小村教授はこれまで、岩石に非常に微量しか含まれない「ユーロピウム152」などを測定してきたが、銀108を測定することで数千倍の感度を達成。広島で爆心から一.六キロ、長崎で一.四まで原爆中性子を評価できるようになった。
 被ばく者が身に着けていた指輪や首飾りの提供を受け、その人が浴びた原爆中性子線量と健康被害の関係を探ることが可能になるという。





2005年(平成17年)9月13日(火) 北國新聞朝刊 41面

辰巳用水のホタル 大きさ2倍
トンネル多く低水温 成長に影響


写真:ホタルのすむ環境を調査する学生=金沢市錦町の辰巳用水


金大大学院・鎌田助教授と名村さん

 金大大学院自然科学研究科・理学部の鎌田直人助教授(生態学)と博士前期課程二年の名村謙吾さんが、金沢市内の農業用水でホタルの生態を調べ、辰巳用水のホタルが長坂用水よりも二倍近く大きいことが分かった。ホタルのすみやすい環境の条件もまとめ、十二日に角間キャンパスで始まった農業環境工学関連7学会で発表した。

市内5用水で生態調査

 金沢市南東部の辰巳、長坂、金浦など五用水でゲンジボタルとヘイケボタルの生態を調査した。
 両ホタルとも発生時期は辰巳用水がほかの用水よりも約三週間遅かった。ヘイケボタルについて詳しく調べたところ、大きさは辰巳用水のホタルが重さで二倍重かった。鎌田助教授は辰巳用水はトンネルが多く水温が低いため、ホタルの発生が遅くなる一方、代謝によるロスが少ないため、大きくなるとみている。
 ホタルが生息するための条件は、▽産卵場所として常にぬれたコケがある▽底に土砂がたまる程度に用水の流れが速すぎない▽夜に飛べる水田のような開けた場所と昼間は休める森や茂み−が最低条件であり、これらの環境がそろえば、人工光で夜も明るい場所でもホタルが観察できる場合があることが分かった。
 この研究は農水省「自然再生のための住民参加型生物保全水利施設管理システムの開発」の一環で行っている。鎌田助教授は「用水を自然工法に改修するだけでホタルを呼び寄せるのは難しい」と述べ、周辺の環境を見渡した保全の指針を探っている。

農業環境工学関連7学会大会が開幕 金沢で初

 農業環境工学関連7学会2005年合同大会(実行委員長・上野久儀金大教授)は、日本植物工場学会や日本農業気象学会などから約千二百人、海外十二カ国からも約八十人が参加し、金沢で初めて開催された。
 一般向けには、十四日午後二時から金沢市文化ホールで合同シンポジウム「中山間地域の活性化に果たす農業環境工学の役割」が開かれる。






2005年(平成17年)7月25日(月) 北國新聞掲載記事 2面3面

海岸を美しく

千里浜で季節変動調査 石川 北陸を拠点に沿岸結束


 
石川県では今月六日、羽咋市の千里浜海岸で県による漂着物調査が行われた。県と羽咋市、羽咋郡市広域圏事務組合の職員十五人が、約二時間にわたって、十メートル四方の区画六ヶ所で人工物を採取した結果、菓子袋や発泡スチロールのかけら、国内外のペットボトルから注射器まで、さまざまな漂着物が見つかった。
 なかでも、プラスチック類は全体の九割を占め、海洋環境がいっこうに改善しない現状をあらためて示した。漂着ごみ削減に本腰を入れる石川県は、今年度から調査回数を年四回に増やして九、十、三月にも実施し、季節による変動を調べる方針だ。

草の根清掃10年で107万人
 
 漂着物調査は、海洋汚染の防止策の基礎資料とすることを目的に、一九九六(平成八)年から毎年十月初旬に千里浜海岸と加賀市・塩屋海岸で全体に占めるプラスシック類の数量比率が九八年に84.5%となり、以後、毎年85−90%で推移している。
 自然分解しないプラスチック類については、死んだアザラシの内臓から歯ブラシが見つかった県外の事例報告がある。日本鳥類保護連盟の時国公政石川県支部長は「詳細は実態は把握できないが、県内の海岸線でも被害に遭う鳥は毎年必ず見つかっている」と警鐘を鳴らす。
 ただ、漂着するプラスチック類は直径一、二ミリの粒子状のレジンペレットをはじめ、かけら状になって見つかるものがほとんどで、、発生源の特定は困難という。このため、対策といっても、地元住民や漁協組合員らが自主的に行う海岸清掃しかないのが現状だ。
 石川県は「クリーンビーチいしかわ」に賛同し、毎年、補助金を出している。この草の根運動は今年で十年目を迎え、参加人数は昨年まで県人口にほぼ匹敵する延べ百七万人を超えた。
 しかし、延長五百八十三キロに及ぶ石川の海岸線に漂着するプラスチック類の生活ごみを排除するのは不可能だ。発生源から断つ以外に手立てはなく、石川県では「韓国、中国、ロシアや日本海沿岸の諸団体が共通の認識を持つよう、国際的なワークショップで訴えていく」(廃棄物対策課)としている。

国境越えた対策不可欠

 日本海のごみは、対馬海流に乗って能登半島の外浦に打ち寄せられるハングルが記されたプラスチック容器のように目に見えるものばかりではない。ロシアの放射性廃棄物のように目には見えないが恐ろしいものもある。科学技術の進歩に伴い、こうしたごみはさらに増えていくだろう。それに目を向け、漂着物の分析、漂流ルート、発生源の時定などの調査に乗り出すことは、環日本海諸国にとって急務の課題だ。
 海は世界をつないでいるだけに、ごみにも世界政治や経済などの問題が複雑に絡み合っている。例えば、放射性廃棄物は政治の問題が絡む。また、人体に有害として製造が禁止されている化学物質、ポリ塩ビフェニール(PCB)が魚やシロクマの体内から見つかっていることが報告されているが、このPCBを産出し、捨てているのは先進国なのである。
 つまり、もはや、海のごみの問題は一カ国だけで解決できるものではない。国同士が協力し合って調査をするのはもちろん、ごみの削減に向けた協議を国境を越えて行わなければ、問題解決は前に進まないだろう。
 石川県は、一九九七年にロシアのタンカーの重油流出事故で大きな被害を受けた。この事故を契機に、石川全域で日本海のごみ問題に対する関心が高まった。また、富山県では、財団法人環日本海環境協力センターがロシアや中国、韓国を含む日本海沿岸自治体と連携した漂着物調査に先駆的に取り組んできた。
 石川、富山両県は、それぞれの経験を生かし、日本海におけるごみ削減の取り組みで中核となることを期待したい。






2005年(平成17年)7月25日(月) 北國新聞掲載記事 2面3面

海岸を美しく

中・韓・ロと協力事業 富山  日本海の漂着ごみ削減へ

古来、日本と中国、朝鮮半島、極東ロシアを結ぶ経済・文化交流の舞台であった日本海で、今、漂着ごみによる汚染が進んでいる。周辺地域の財産である日本海を守るため、沿岸自治体が協力する「海辺の漂着物調査」が続けられ、十一月には国連の北西太平洋行動計画(NOWPAP)地域を対象にした海洋ごみの国際会議が富山市で初めて開催されることが決まった。漂着ごみ対象の拠点である石川、富山両県の取り組みと今後の課題を追った。

11月に国際会議 問われる発生源責任

 中国、韓国、ロシアと協力し、日本海と黄海の海洋環境保全活動に中心的役割を担っているのが、財団法人環日本海環境協力センター(NPEC、富山市)である。
 富山県は一九九六(平成八)年度、秋田県から山口県までの十府県が協力した「日本海沿岸の海辺の埋没・漂着物調査」を初めて実施し、翌年、県が設立したNPECがこの調査事業を引き継いだ。ロシアと韓国が同年に加わり、〇二年度からは中国も参加。現在、四カ国、二十四自治体が、合わせて四十八の海岸で「海辺の漂着物調査」を続けている。
 漂着物をプラスチック、発泡スチレン、金属など八種類に分類し、個数や重量などを調べており、日本海の汚染の実態が徐々に明らかになっている。
 例えば、長崎県の対馬や壱岐などの離島には、海流の影響で他地域の何十倍もの大量のごみが漂着しているが、他地域の実態を知らなかった地元住民は、これを当たり前のこととしてとらえていたという。漂着ごみの処分費用は地元自治体の大きな負担になっており、発生源の責任があらためて問われている。
 漂着ごみの約70%はプラスチック類が占めているが、海で分解されないことから、誤飲や誤食による海鳥、魚類、海亀、クジラ類などの生態系への悪影響も指摘されている。
 今月十五日、「海辺の漂着物調査検討会」が、国内から石川など七自治体、海外から中国、韓国、ロシアの十自治体が参加して、富山市で開かれた。検討会の事務局を務めたNPECは当面、海辺の漂着物調査を継続する方針を示すと同時に▽自発的、主体的な調査への参加▽調査支援体制の見直し▽検討会の隔年開催−などを提案した。提案は参加自治体が持ち帰って検討し、より効率的で効果的な定期観測体制の構築を目指す予定である。
 同じ日には、日本財団の支援を受けて富山県とNPECが主催する「海洋ごみ問題シンポジウムin とやま」も富山市で開かれた。参加者からは「海洋ごみの調査から一歩前に踏み出し、具体的な削減対策を実施する時期に来ている」との意見が出るなど、環日本海地域が結束した削減対策が急務をなっている。

環境省もようやく本腰 漂流経路推定、モデル構築へ

 九月に及ぶNPECの「海辺の漂着物調査」の取り組みによって、国もようやく重い腰を上げた。環境省が今年度から三カ年計画で、海辺の景観を損ねるだけでなく、海洋環境の悪化に大きな影響を及ぼす漂流・漂着ごみ対策に本格的に乗り出すことになったのである。
 環境省は現在、具体的な計画を策定中だが、日本列島に漂着する海外からのごみの実態調査を実施し、漂流経路などを推定するシュミレーションモデルの構築を目指す方針だ。漂着経路と併せて、発生源や漂着量も推定し、海洋ごみに関するホームページやリーフレットを作成、国内はもとより近隣諸国の啓発を図っていく。
 事業の第一弾となるのが十一月十四日、十五日に富山市で初めて開催される「第一回北西太平洋地域における海洋ごみに関する国際ワークショップ」である。環境省とNOWPAP地域の日本、中国、韓国、ロシアの研究者が一堂に会して海洋ごみ問題のネットワークづくりを進めるのが狙いだ。
 ワークショップには、NOWPAP地域以外の研究者の参加も予想される。二十人前後の第一線の研究者が、各沿岸に流れ着いたごみや海底に沈んだごみの実態のほか、大量のごみをどう処理・処分しているか、生態系への影響などについて最新の調査・研究成果を報告する。
 富山県やNPEC関係者は、環境省が乗り出したことを一様に歓迎する。海洋ごみの問題はもはや、自治体や研究機関レベルで対処、解決できる事柄ではない。発生源での対応、ごみ処理の方法や費用も大きな課題だ。北陸を核に、各国政府レベルでの政策協議が求められている。






2005年(平成17年)7月10日 北國新聞掲載記事 22面








2005年(平成17年)4月12日(火) 北國新聞掲載記事 社会2 34面

金大に2億8千万円 COE予算配分 先端大1億9千万円

 文科省は11日、大学の世界的研究拠点作りを目指す「21世紀COEプログラム」で採択した研究への2005年度の補助金額を決定した。総額は351億9千万円で、金大は2件に計2億8千520万円、北陸先端科技大学院大は2件に計1億9千250万円が交付される。
 金大は「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」2億20万円、「発達・学習・記憶と障害の革新脳科学の創成8千500万円。先端大は「知識科学に基づく科学技術の創造と実践」1億550万円、「検証進化可能電子社会」8千700万円となった。






平成17年(2005年)4月1日 北國新聞 社会2 38面


「クマ出没“犯人”は昆虫」金大・鎌田助教授 県林試と共同調査

 昨年、餌不足から石川県内の里山に多発したクマの異常出没で、原因となったドングリなどの不作は「昆虫による食害」の可能性が高いことが、金大大学院自然科学研究科の鎌田直人助教授と県林業試験場の小谷二郎専門員の共同調査で分かった。林野庁はこれまで「相次いで上陸した台風による落下」を公式見解としていたが、白山ろくのブナ林を調べた結果、強風による落下は少なく、ガの幼虫に食べられ自然に落ちた実が多く確認された。クマが小さな虫に餌を横取りされた格好で、「犯人は台風」との定説に一石を投じている。

餌不足 台風より食害 ガの幼虫ブナの実横取り

 鎌田助教授らは、旧尾口村とが谷など白山ろくの四ヵ所で落下したブナの種子を調査。2003、4年度は開花数が極めて少ない上、ガの一種であるブナヒメシンクイの幼虫による食害が目立った。ブナの実は発達過程で食害を受けると、発芽の見込みがない種子に栄養分を回す無駄を避けるため、市h全に落下する性質がある。
 このことから、鎌田助教授らは台風で実が落ちたとの定説に対し、「種子を包む殻は球形で空気抵抗をほとんど受けない」とし、台風が原因であれば、空気抵抗の大きい葉が強風を受け、枝ごと落ちると推定している。
 さらに、昨年度はクマの餌となるブナ、ミズナラの両方の実が昆虫に起因する大凶作に見舞われた点も指摘。ブナは実を食べる天敵の昆虫類の個体数を減らすため、ほとんど実を付けない凶作の年を設けることで知られている。これまではブナが凶作の年でもミズナラが実を付けたため、クマの餌に影響はなかったが、昨年は偶然にも凶作が重なったとしている。
 ブナは凶作続きの後、豊作となる傾向にあることから、今年は深刻な餌不足が避けられるとの見方もある。しかし、ミズナラの立ち枯れを引き起こすキクイムシの被害が深刻化しており、鎌田助教授らは「長期的にはミズナラの立ち枯れがクマの生態に影響を及ぼす可能性もある」としている。






2005年(平成17年)3月29日(火) 北國新聞朝刊掲載記事 

土壌を守る「魔法の粉」 ヒ素を吸着 拡散防止

 金大自然計測応用研究センターの佐藤努助教授(環境鉱物学)が、汚染土壌に含まれる猛毒のヒ素が溶け出さないように固定できる鉱物を発見し、特許を出願した。工場跡地などの土壌汚染が社会問題となる中、土に混ぜるだけで環境基準をクリアできる“魔法の粉”を金大発ベンチャー企業から発売。汚染土壌を運び出して二次汚染を引き起こす心配もなく、天然由来の安価な環境浄化法として期待されている。

金大発ベンチャー商品化

 佐藤助教授は群馬県にある旧ヒ素鉱山の環境調査で、鉱山から流れ出すヒ素汚染水が下流に行くほど浄化されることに注目。河床の堆積物に含まれる鉱物「シュベルトマナイト」にヒ素が吸着していることを発見した。この鉱物はヒ素を吸着することで安定化することを実験で確かめ、市販の薬局を水中で混ぜるだけで製造する方法を開発した。バングラディシュのヒ素汚染地域で井戸水に散布し、非常に高い浄化作用を確認した。
 しかし、この鉱物はヒ素を吸着していない場合はすぐに別の物質に変わるため、佐藤助教授らは天然由来の保存料を混ぜて長持ちさせる工夫で商品化に成功。共同研究者と金大発のベンチャー企業ソフィア(東京)を設立し、事業を展開することになった。この鉱物を汚染水に混ぜてヒ素を取り除いたり、汚染土壌に混ぜてその場から流れ出さなくしたりできる。すでにヒ素濃度が高い排水の処理に使っており、土壌に混ぜる方法もほかの企業と実施の検討に入った。
 土壌汚染の解決は今のところ、土壌を北海道などの処理施設に運んで洗浄し、再び元の場所に戻す方法がとられている。この方法により土壌から汚染物質はなくなるが、大量の土壌を遠くまで運搬するため多大な経費がかかり、別の場所を二次汚染する危険性もあるなど、問題点が多い。佐藤助教授が開発した方法は土壌中から汚染物質をなくすことはできないが、雨や地下水で流れ出なくするため周辺の環境を汚染することもなく、安価で安全に解決できる。今後は、リンやセレンなどの汚染物質でも応用を目指している。

ヒ素
半導体や防腐剤、農薬などに幅広く利用される元素。古くから毒素として知られており、和歌山毒物カレー事件のほか、最近も三菱地所などが土壌のヒ素汚染を隠して大阪市のマンションを分譲していた事件が問題となっている。






2005年(平成17年)3月8日 北國新聞掲載記事 石川政経 4面

大学のCOE成果 県民にも分かる説明を

 文部科学省の肝いりで3年前にスタートした大学の卓越拠点研究5ヵ年計画(COEプログラム)の成果が出始めている。北陸でも研究成果がシンポジウムなどで発表されているが、特に社会とのかかわりが深く、関心も高い成果については県民に分かりやすく説明し、研究の意義を理解してもらう努力をしてもらいたい。
 今月初めに金沢市内で開かれた環日本海COEプログラム(金大)の国際シンポジウムでは、福井県立大の報告が注目された。日本海を通して回遊するマイワシの漁獲量が数10年周期で大規模に変動するのは、漁業による乱獲というよりは「地球規模の気候変動と連動した海洋の環境変化」が原因ではないかとの趣旨で、変動の詳しい仕組みが明らかになれば、年ごとにより精度の高い変動予測も可能になるという。こうした成果は、研究関係者よりもむしろ漁業関係者の方がより強い関心を持つのではないか。
 金大では現在、脳科学COEプログラムも進められ、先月開かれた国内シンポジウムでは、発達障害児の脳研究が紹介された。富山県では和漢COEプログラム(富山医薬大)の国際シンポジウムが昨年12月に開かれ、天然資源から健康飲料を開発する手法に注目が集まった。
 北陸ではこのほか、北陸先端大で知識科学と電子社会に関するCOEプログラムが行われている。いずれも社会との関連は深いが、これまで公開された成果は専門用語が頻出し、一般に理解しにくいのが実情である。研究成果を具体的にどう社会に還元していくのかも含め、県民の理解を深める工夫を望みたい。
 内閣府の昨年の科学技術世論調査によると、科学者や技術者の話を聞いてみたいという人は51%で、6年前の前回調査に比べて6ポイントも減少している。その理由のトップは「専門的すぎる」というものである。また科学者や技術者に親しみを感じないという人の割合は調査ごとに増え、74%に達している。科学技術に対する国民の支持をつなぎとめるには、こうした状況の改善が急務である。そのためには、研究機関と社会との橋渡しをしたり、研究をかみ砕いて説明できる人材の養成に力を入れる必要もあろう。





2005年(平成17年)3月8日 北國新聞掲載記事 17面

COEプログラム研究成果を発表 金大、北陸先端大
 
 金大と北陸先端科学技術大学院大の第4回研究交流会は7日、能美市の先端大で開かれた。双方の研究員や学生ら約60人が参加し、両大学で推進している21世紀COE(卓越した研究拠点)プログラムの概要や研究成果について理解を深めた。 
 潮田資勝先端大学長のあいさつに続き、各大学の教授が、21世紀COEプログラムに採択されている先端大の「知識科学に基づく科学技術の創造と実践」、金大の「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」のこれまでの研究成果や今後の課題などを説明した。





2005年(平成17年)3月2日 北國新聞掲載記事 地方社会 17面

地域住民のニーズ尊重 金大COEでパネル討議

 第3回金大21世紀COEシンポジウム「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」は2日目の1日、金沢市の石川厚生年金会館でパネル討議が行われ、拠点リーダーの早川和一教授は「地域住民の応援なくして、このCOEの発展は期待できない」と述べ、住民ニーズを尊重しながら研究を進める考えを示した。
 同大自然計測応用研究センター長の柏谷健二教授は「COEで理学と工学の壁は取り払われた。社会科学との接点を作ることが課題だ」と話し、高水準の基礎研究から政策につながる成果が得られる可能性を指摘した。 シンポは2日まで。





平成17年2月28日 北國新聞掲載記事夕刊 6面

環境改善へ連携を強化 金大COEシンポ
 
 第3回金大21世紀COEシンポジウム「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」は28日、金沢市の厚生年金会館で始まり、日本海を中心とする環境問題の研究、解決に向け周辺諸国の研究者や機関が連携を強めることを確認した。
 林勇二郎金大学長が「環境破壊というギャップを生む研究でなく、これからは理想と現実の差を埋める科学を追求しなければならない」とあいさつした。続いて、同大が取り組む環日本海域に関する研究データを閲覧できるネットワークの形成や大気環境、生態系、黄砂などの研究が紹介された。





平成17年3月1日 北國新聞掲載記事地方社会 21面

環境情報を一元化 金大COE 環日本海でネット形成

 第3回金大21世紀COEシンポジウム「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」は28日、金沢市の石川厚生年金会館で始まった。行政や大学、研究所などが観測してきた気象や海洋、水産などのさまざまな環境情報を金大で一元化し、ネットワークで管理する方向性が示された。
 シンポの席上、拠点リーダーの早川和一教授が明らかにした。ばらばらに存在する環境データを一元化し、研究で新たな知見を得たり、行政の施策に反映したりすることを目標にしている。1日には学内の環日本海環境戦略研究機構会議の初会合として環境データベースの有効活用について関係者が話し合う。

自然計測センター きょうから新部門

 これに伴い、金大自然計測応用研究センターに1日、自然環境情報部門と人間環境情報部門の2部門が新設される。海上保安庁の谷伸海洋調査課長と、金大文学部の青木賢人助教授がそれぞれ部門を担当し、データベース構築を進める。
 この日は日本海底の鉱物資源や酸性雨の現状などについて報告があった。シンポは2日まで。 





2005年(平成17年)2月8日 北國新聞掲載記事朝刊 29面


日本海テーマに講座 金大COEなど 27日、市民対象に

 
金大21世紀COEプログラムといしかわ国際協力研究機構、いしかわ大学連携促進協議会は27日、金沢市の県生涯学習センターで公開市民講座「日本海の環境と石川の食文化」を開く。日本海をテーマに環境や交易の発展、水産資源などについて大学の研究者が研究成果を報告する。
 金大の岩坂泰信自然計測応用研究センター教授、古畑徹文学部教授、陶智子富山短大助教授らのほか、福光屋の梁井宏常務取締役が「米と水と酒文化」と題して講演する。出演者によるパネルディスカッションも行われる。
 入場無料。問い合わせは金大COE事務局=076(264)6225=、いしかわ国際協力研究機構=076(224)0044=、いしかわ大学連携促進協議会=076(223)1633=まで。





2005年(平成17年)2月2日 北國新聞掲載 朝刊 社会2 28面

たばこの煙に含まれる発がん物質に男性ホルモン作用

 たばこの煙や車の排ガスに含まれる発がん物質「ベンツピレン」に男性ホルモン作用があることを、金大大学院自然科学研究科・薬学部の木津良一助教授が発見した。ベンツピレンの男性ホルモン作用を明らかにしたのは世界初。自然界への影響はいまだ知られておらず、木津助教授は男性ホルモン作用の仕組み解明を急ぐ。
 ベンツピレンは物が燃える際に必ず発生する多環芳香族炭化水素の一つで、たばこの煙に含まれる代表的な発がん物質とされる。
 木津助教授はヒト培養細胞が男性ホルモンに触れると光るように遺伝子を操作し、さまざまな環境汚染物質を入れて実験した。ベンツピレンで培養細胞が光ったことから、男性ホルモン作用を確認できた。
 木津助教授はこれまで、ベンツピレンに女性ホルモンの作用があることも明らかにしており、魚などがメス化する「環境ホルモン」として注目が集まっている。一方、環境汚染物質の男性ホルモン作用は、ほとんど研究が進んでいないという。
 木津助教授は「ベンツピレンは男性ホルモンの作用を示すような構造をしておらず、不思議だ。どのような分子機構で作用を示すのかを解明したい」と話している。





2004年(平成16年)12月21日 北國新聞朝刊掲載

世界一の放射能研究拠点 金大の尾小屋地下測定室
検出器など拡充 精度、交通の便を評価




 金大は来年度から、小松市にある尾小屋地下測定室の整備に着手し、微弱な放射能の測定で世界一の研究所を目指す。天然にわずかに存在する放射性物質を明らかにし、物理学や環境科学、考古学などの研究拠点を形成する。20日内示された2005(平成17)年度政府予算財務省原案で文部科学省の特別教育研究経費に全国枠で786億円が計上された。
 尾小屋地下測定室は金大自然計測応用研究センター低レベル放射能実験施設(辰口町)の小村和久教授(環境放射能学)が小松市尾小屋町のトンネル内に設置している。来年度から、検出器を4台増設し、世界一の15台体制とするほか、将来的には150平方メートル空間を確保する計画を立てている。
 
 測定室は地下にあるため、微弱な放射能測定の障害となる宇宙線が抑えられるほか、検出器の周囲は金沢城で使われていた鉛瓦の鉛で覆い、精錬直後の鉛では実現できない約1000分の1レベルまで“雑音”を抑えることに成功している。
 これまでも広島原爆の残留放射能を検出したり、99年の東海村臨界事故や95年の根上隕石などでも、ごくわずかな量の放射能を測定し、世界に類を見ない精度が高く評価された。ただ、研究費が十分でないため、岩がむき出しのトンネルにプレハブ小屋を設置して検出器を置いているのが現状だ。
 小村教授は「外国の地下測定室に比べ、小松空港が近く、全国や海外からも研究者が来やすい環境にある。物理学の根底を揺るがす発見も夢ではない」と話している。





2004年(平成16年)12月1日 北國新聞朝刊掲載

金大COEはB評価 文科省が中間発表「一層の努力が必要」

 先駆的な研究に予算を重点配分する文部科学省の「21世紀COEプログラム」で、初年度の2002年度に採択された50大学113件に対する中間評価が29日、公表された。金大は5段階で上から2番目のB評価「目的達成には一層の努力が必要」とされた。
 評価した日本学術振興会の委員会は、金大のCOEプログラム「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測-モニタリングネットワークの構築と人為的影響の評価-」について、「一部の人為起源物質の観測、周辺生態系の変動の観測などは順調に進んでいる」としたが、環境計測計画や国内外機関との連携が十分ではないと判断した。「研究計画を絞り込み、重点化、明確化することがすることが肝要である」とした。
 拠点リーダーの早川和一自然科学研究科教授は「研究の必要性と金大の役割の重要性はますます高まっており、担当者一同、一層の充実を図っていきたい」と述べた。

九大、法大に「計画の大幅縮小を

 最も良いAの「計画は順調に実施」が41件、Bは60件で、両方で全体の89%を占めた。Cの「当初目的の達成は難しいので計画の適切な変更が必要」は10件、九大と法大の研究計2件が下から2番目のDとなり「今後努力を待っても目的達成は困難と思われ、計画の大幅縮小が必要」とされた。





2004年(平成16年)3月1日 北國新聞朝刊

最新の研究に理解深め 金大COEシンポ

 金大21世紀COEプログラムといしかわ国際協力研究機構、国連大学高等研究所主催の「環境管理に関する国際シンポジウム−大気汚染・都市固形廃棄物管理と政策」は29日、金沢市の県立生涯学習センターで始まり、来場者約200人が最新の研究成果に理解を深めた。
 この日は、元世界銀行主任環境エンジニアのカール・バートン氏らがごみ問題や大気汚染について基調講演した。
 パネル展示では、大気環境や水・土壌など6テーマでパネル約110枚が並べられたほか、日本周辺を表したジオラマもあった。開会式では、林勇二郎金大学長や国連大学高等研究所の渡邉明彦次長があいさつした。
 シンポジウムは3月3日まで、金沢市アートホールで行われる。





2003年(平成15年)10月16日 北國新聞朝刊掲載

重油禍の教訓世界に 金大など研究成果を英文で出版



 
6年前のロシアンタンカー重油流出事故をきっかけに日本海側の地方大学が進めてきた環境影響調査などの研究成果を英文でまとめた論文集が今月10日、金大から出版された。流出時の汚染や回収法、生態系への影響などを世界に発信し、各地で頻発する石油流出事故の教訓にしてもらう。
 論文集は「1997年、ロシア船籍タンカー『ナホトカ号』の重油流出事故-地球的視野に立った生態系への責任」と題し、金大21世紀COEプログラムの一環として出版された。石川県や福井県の海岸に漂着したC重油の生々しい光景や、ひしゃくで回収する人々などのカラー写真が盛り込まれたほか、環境への影響や化学的な成分、汚染の修復法などの研究が詳細に記録されている。
 編集した金大理学部の田崎和江教授は「重油汚染の悲劇を繰り返さないためにも、世界の人に重油汚染の教訓を知ってほしい」と話した。





2003年(平成15年)1月14日 北國新聞朝刊25面掲載

研究成果を世界に発信 金大など 来年初めに英訳出版へ
重油流出事故から6年

 6年前のロシアタンカー重油流出事故を契機に、金大を中心とする日本海側の地方大学から発信された研究論文を、来年の初めに英訳でまとめ出版することになった。海岸汚染や環境影響の生々しい記録をはじめ、油の回収や海岸浄化の新しい手法など、事故をきっかけに生まれた研究成果を世界に発信し、今後の流出事故に教訓として生かしてもらう考えだ。
 論文集の出版は、今年度始まった金大の21世紀COEプログラムの一環として行われ、同大の研究者をはじめ、6年前に重油漂着に見舞われた日本海側に位置する北大、新潟大、富大、福井大、鳥取大、島根大などの研究者が参加する予定になっている。
 重油流出事故をめぐる大学での研究は、これまで、事故当時に緊急配分された科学研究費補助金の報告書のほか、さまざまな学術雑誌で多数発表されてきた。しかし、英文による論文は少なく、世界に向けた論文集の出版が待たれていた。
 タンカーが行き交う世界中の海では、幾度も大規模な石油流出事故が発生しており、昨年11月にはスペイン北西部沖でタンカー「プレスティジ」が沈没、流出した重油による汚染が同国からフランス西海岸に拡大し、大惨事となっている。
 英訳論文集の出版を呼び掛けた金大理学部の田崎和江教授(地球環境科学)は「6年前の重油流出事故で研究に取り組んだ科学者の経験を後世に残さなければならない」と話している。






2003年(平成15年)1月11日 北國新聞朝刊35面掲載

ディーゼルの健康影響探る 金大COEなど

 ディーゼル排ガスの健康への影響を探るシンポジウムが10日、金沢市の石川厚生年金会館で開かれ、金大の21世紀COEプログラムをはじめ、全国の大学や企業などの研究者5人が発表した。
 ディーゼルから出る有害物質が内臓や脳に悪影響を与えたり、環境ホルモン作用を示すことなどが報告された。光触媒による浄化法や、汚染物質の新しい測定法にも議論が及んだ。

3月に国際シンポ

 金大21世紀COEプログラムの第1回国際シンポジウム「環日本海の環境計測と長期・短期変動予測−モニタリングネットーワークの構築と人為的影響の評価」は3月17日、18日、金沢市の金沢シティモンドホテルで開かれる。





2002年(平成14年)11月22日 北國新聞朝刊掲載

採択研究の理由公表 文科省のCOEプログラム 批判受け方針転換

 文部科学省は21日、先駆的な大学の研究に予算を重点配分する「21世紀COEプログラム」(旧称トップ30大学構想)に採択した各研究の採択理由を公表した。不採択の大学名と理由は公表していない。
 採択した各研究の概要をまとめた冊子も作成し、国公私立のすべての大学に配布した。
 10月に採択結果を発表した際、選考に当たったCOEプログラム委員会の江崎玲於奈委員長は「採択理由を公表する必要はない」と拒んでいたが「情報開示が不十分。選考過程も不透明だ」などの批判があり、一転して公表した。
 審査期間を十分確保するため来年度予算が固まり次第、年明けにも公募を始める考えも示した。

金大「明確に的絞る」と評価

 北陸では金大の1件のみが採択された。「学際・複合・新領域」分野で「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」が研究テーマ。
 採択理由は「環日本海域の環境問題は重要であり、、この地域に関して多様な拠点形成の申請があったが、本提案は比較的明確に的を絞ったものとなっている。環境計測そのものにおいてその一中核拠点となり、ネットワークの構築の取り組みを強く進められることを期待する」としている。





2002年(平成14年)10月30日 北國新聞朝刊掲載

研究別で金大2位 文科省、COE補助金配分

 文部科学省は29日、先駆的な大学の研究に予算を重点配分する「21世紀COEプログラム」に採択した50大学、113件に対する本年度の補助金交付額を決めた。
 交付額は約167億円。最高額は、京大の「環境調和型エネルギーの研究教育拠点形成」で3億2300万円。次いで金大「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」の3億800万円、奈良先端科学技術大学院大「フロンティアバイオサイエンスへの展開」の2億9200万円など。
 最小額は愛知大「国際中国学研究センター」の1100万円。
 大学別合計額の上位は、11件が採択された京大の19億5800万円、同じく11件東大が18億5300万円。7件が採択された大阪大が12億5600万円。この3校だけで全体の30%を占め、5件採択の慶応大が9億3100万円と続いた。
 国公私立別では国立大が計130億200万円で全体の78%。公立は3%に計当たる計5億3200万円、私立は19%に当たる計32億900万円で採択件数とほぼ同じ割合だった。





2002年(平成14年)10月12日 北國新聞朝刊掲載

世界最高水準の拠点育む


ニュース質問箱
 金大が選ばれた「21世紀COEプログラム」とは何でしょうか。金大ではどんな研究をするのですか。
回答 「21世紀COEプログラム」は、日本の大学を世界最高水準の研究拠点に育てるため、文部科学省が研究資金を大学などに重点的に配分する制度です。選ばれた研究は5年間にわたり年1億-5億円支援されます。
 金大の研究が選ばれたのは「学際・複合・新領域」の分野です。これまでの科学の枠を超え、さまざまな専門の学者が集まって研究するのが特徴です。20人の教官で「環日本海の環境計測と長期・短期変動予測」をテーマにしました。
 研究の内容は、5年前に石川県などの海岸を襲ったロシアタンカー重油流出事故を踏まえた研究のほか、海を越えて大陸から汚染物質が流れてくる酸性雨や酸性雪、さらに地球環境の長期変動などを出したり、非常に低いレベルの放射能を測定したり、ダイオキシンを集めるフィルターを開発している先生など、世界的な研究者が何人もいます。それぞれの分野の先生方が手を携え、国内外の研究者とも協力して、金大が環境研究の世界的拠点として認められるように頑張ります。高校生の皆さんも金大に入学して一緒に研究してみませんか。
(早川和一・金大大学院自然科学研究科教授)





2002年(平成14年)10月3日 北國新聞朝刊掲載

「採択1件は少ない」 21世紀プログラム 意気込み伝わったが・・・・・・
金大「今後戦略考えたい」
                 



 世界を目指す「研究大学」か、教育に専念する「人材供給源」か-。大学のふるい分けともささやかれた21世紀COEプログラムの“合否”が2日発表され、北陸では金大の研究1件だけが採択された。ホッとした金大の一方で、落選の北陸先端技術大学院大は「なぜ?」と戸惑う。研究予算の重点配分は学都金沢の将来を左右しかねないだけに、関係者からは「たった1件ではぬか喜びできない」との声も漏れる。
 「教育を重視した研究大学」を目指す金大は「研究大学」としてのお墨付きを得るために何としても21世紀COEに選ばれる必要があった。今年度は「生命科学」「化学・材料科学」「情報・電気・電子」「人文科学」「学際・複合・新領域」の5分野が申請の対象となっており、金大はすべての分野についてチームを組織し、7月下旬に申請した。
 金大関係者の間では「できれば2つ、生命科学と環境が通ってほしい・・・」とささやかれていたが、その後、9月下旬の文科省ヒアリングに呼び出されたのは「環境」の1本だけ。林勇二郎学長らは「ゼロだったら大変だな・・・・」と並々ならぬ意気込みでヒアリングに臨んだ。
 採択の報告を受け、2日に会見した林学長は「法人化に向けて大きなステップとなったが、金大が1つなのはちょっと少ない気がする」と率直に認めた。総合大学として「全分野に申請する意気込みは文科省に伝わっただろうが、作戦ミスだ」(金大教官)との声も学内からは聞かれる。
 来年は「医学」や「機械、土木、建築その他工学」など5分野で申請を受け付ける。金大からはすでに医学部が申請に名乗りを上げているが、「医学」プラス「α」を目指すために尾田十八自然科学研究科長は「今年の結果を参考にして戦略を考えたい」と話した。」

地方大学に厳しい結果

21世紀COEに採択された大学は、旧帝大が全体の約半数を占め、地方大や私立大には厳しい結果となった。金大には「21世紀COEは旧帝大に予算を集中投入する名目に過ぎない」とつぶやく教官もいる。
 金大を含め「旧六」と言われる6大学のうち、長崎大と熊本大を除く岡山、千葉、新潟大は選から漏れた。一方で、長岡技術大(長岡市)や鳥取大など日本海側の地方大でも地元の特色や一芸を生かして「トップ30」入りした大学もあり、文科省は「結果的に地域バランスは取れた」としている。
 しかし、北陸に目をやると、富山、福井では採択された大学はない。特に富山県内では富大2件富山医薬大1件、県立大2件を申請したが、いずれも採択されなかった。重点的な研究費が落ちる大学が少ないとなると、北陸全体の学術の地盤沈下も招きかねないだけに、金大に課せられた責任と自覚はますます大きくなっている。

重油、放射能、酸性雨、森林衰退・・・・
環日本海で環境研究 金大プロジェクト 早川教授ら20人、学際的に


 21世紀COEプログラムに選ばれた金大の研究プロジェクト「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」は、大学院自然科学研究科地球環境科学専攻と自然計測応用研究センターの教官陣20人が学際的に集結した。
 重点研究として●日本海重油汚染●放射能の環境影響●酸性雨雪●化学物質の毒性●森林衰退●環境の長期変動−を柱としており、ほとんどのテーマはすでに日韓中ロの国際研究がスタートしている。
 チームは理、薬、工学部で横断的に組織されており、とりわけ今年4月に発足した自然計測応用研究センターと大学院を兼務している教官が多い。
 研究リーダーの早川和一教授は、発がん性や環境ホルモン作用が指摘されている化学物質を従来の100倍の感度で検出できるようにした。小村和久教授は小松市尾小屋のトンネル内で低レベル放射能を測定し、金岡千嘉男教授はダイオキシンを集めるフィルターを開発している。林学長は「いずれの研究も世界最高水準だ」と胸を張った。
 早川教授は「地質時代からの自然の移り変わりと、工業化など人為的な要因による変化をとらえ、最終的には環境汚染の予測と対策を進めたい」と意気込んでいる。





2001年(平成13年)1月1日 北國新聞掲載記事

たばこの煙に環境ホルモン 女性ホルモンの働き阻害
金大薬学部早川教授ら 妊婦への影響裏付け




 生殖に悪影響を及ぼすとして社会問題化している「環境ホルモン」が、たばこの煙の中に含まれていることが31日までに、金大薬学部の早川和一教授らの研究で明らかになった。女性ホルモンの働きをかく乱する作用があることがあらためて確認され、妊娠中の女性や周りでの喫煙が流産などにつながるとする報告を裏付けた。実験では、たばこの煙を、喫煙者が吸う煙と、たばこの先端から出る煙に分けて含有物を採取し、女性ホルモンの一種であるエストロゲンで活性化する酵母の培養液に混入した。その結果、エストロゲンだけを入れた培養液に比べ、酵母の活性度が喫煙者が吸う煙では約3分の1、たばこの先端から出る煙では約2分の1にそれぞれ低下し、女性ホルモンの作用を阻害することを確認した。
 妊娠中の女性の喫煙が流産や胎児の健康に悪影響を及ぼすといわれており、鈴木雅州元東北大教授らによる研究では、早産や低体重児となる割合は喫煙しない女性に比べ2―5倍に上ることが確認されている。これまで、たばこの害は血管を収縮させるニコチンや発がん性のあるベンツピレンなどが問題にされていたが、環境ホルモンに視点をおいた研究はなかった。
 今回の研究結果から、早川教授は「妊婦や子供の周りでは絶対にたばこを吸わない配慮が必要である」と強調する。
 研究グループでは「これまでのような、食べ物や水から摂取される環境ホルモンの調査だけでは不妊娠中の女性の喫煙が流産や胎児の健康に悪影響を及ぼすといわれており、鈴木雅州元東北大教授らによる研究では、早産や低体重児となる割合は喫煙しない女性に比べ2―5倍に上ることが確認されている。これまで、たばこの害は血管を収縮させるニコチンや発がん性のあるベンツピレンなどが問題にされていたが、環境ホルモンに視点をおいた研究はなかった。
 今回の研究結果から、早川教授は「妊婦や子供の周りでは絶対にたばこを吸わない配慮が必要である」と強調する。
 研究グループでは「これまでのような、食べ物や水から摂取される環境ホルモンの調査だけでは不十分だ」として、呼吸で摂取される環境ホルモンの特定と量の調査を早急に進めていくことにしている。研究は、金大薬学部の早川教授、木津良一助教授、鳥羽陽助手、金大自然科学研究科修士課程1年の矢島亨さんが1年前から進めてきた。





1999年(平成11年)12月8日 北國新聞掲載記事 夕刊

空気と環境ホルモン早川和一(金大薬学部教授)

 人間が毎日吸う空気が内分泌かく乱化学物質、いわゆる環境ホルモンに汚染されつつある。最近、我々のグループの研究で、ディーゼル粉じんが女性ホルモンや男性ホルモンの働きをかく乱することが明らかになった。先に金沢で開催したシンポジウムで発表したところ大きな反響があった。
 ディーゼル粉じんに含まれる多環芳香族炭化水素類(ベンゾ〔a〕ピレンなど多種類)が環境ホルモンとして作用するが、これは以前から発がん性が指摘されていた物質でもある。一般に、有害な化学物質は体の中に入ると、酵素の働きで毒性の低い構造に変化してから排泄される。ところが多環芳香族炭化水素類の場合は、女性ホルモンや男性ホルモンと似た構造に変化するために、細胞が本来のホルモンと見間違うらしい。
 ここ数年、我が国でも環境ホルモンが大きな問題となり、ダイオキシンやビスフェノールAなどを含む60種類以上の化学物質を対象に調査研究が始まっている。しかし、その対象は水や食物から体に入る経路が中心で、呼吸によって入る環境ホルモンにはほとんど手がつけられていないのが実情だ。
 我々の研究は始まったばかりであるが、問題の多環芳香族炭化水素類は、ベンゾ〔a〕ピレン1種類に限っても大気中濃度がダイオキシンの数千から数万倍と推定される。またタバコの煙にも多量に含まれている。環境ホルモンの種類と毒性の強さなどまだ明らかでない点の解明を急ぎ、空気という身近な環境の安全に関する新たな基準と対策をたてることが必要である。(金沢市)





1998年(平成10年)10月25日 北國新聞掲載記事 地方社会 35面

時間経過で新たな影響 ロシアタンカー事故
流出重油に環境ホルモン 複数の物質作用か
金大・木津助教授グループ


 金大自然科学研究科の木津良一助教授グループは24日までに、昨年1月に起きたロシアタンカー事故で流出した重油成分中に、生殖機能を乱す恐れがある内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)が含まれていることを突き止めた。同グループは、今後、重油成分に含まれた環境ホルモン作用を持つ物質を特定し、作用の強さ、生態系、魚介類への蓄積による食物連鎖の影響などについて研究を進める。
 木津助教授らの実験では、増殖に女性ホルモン(エストラジオール)がかかわっている乳がん細胞と、同じく増殖に男性ホルモン(ジヒドロテストステロン)がかかわっている前立腺がんの細胞にナホトカ号の船首部分に残った重油を採取し加えた。この結果、約1週間で乳がん細胞は1.5倍、前立腺がん細胞は1.3倍に増殖した。このことから残存重油の中に、男性、女性ホルモンと同様の働きをする環境ホルモン作用を持つ物質が含まれることが分かった。
 木津助教授らはこれまでの研究で、女性ホルモン化合物のジエチルシチルベストロールと構造が類似している多環芳香族炭化水素のベンゾaピレンが環境ホルモン作用を引き起こす化学物質の1つである可能性が大きいとしている。
 ベンゾaピレンは、物質自体はホルモン作用を示さないが、時間が経っても分解せずに残り、海岸で太陽光線を浴びるなどして女性ホルモン化合物と似た構造に変わることも十分考えられる。研究グループは今後、ほかの重油成分でも同様の構造や作用を持つ要素がないか突き止め、太陽光線や微生物が重油成分の環境ホルモン化にどうかかわるのかも細かく調査を進める。
 木津助教授は「重油に含まれた複数の化合物が相互に作用して環境ホルモンの働きを持つ可能性もある。昨年の事故で流出した重油が魚介類にはほとんど影響を与えていないと思われるが、漂着後の時間経過がホルモン作用の強さに関連するかどうか調べる必要がある」話している。





1998年(平成10年)6月28日 北國新聞掲載記事 29面

領域超え研究の推進を 早川金大薬学部教授

 微生物を使った環境ホルモンの分解除去法の確立に向け、金大、北陸先端科技大学院大の4研究グループの合同研究プロジェクトチームを立ち上げた金大薬学部の早川和一教授は「環境ホルモンは科学的に未解明な部分が多く、各研究者が専門領域を超えて早急にスクラムを組み、それぞれが持つ情報を交
換して研究を推し進める必要があると痛感した」と明かす。 
 環境ホルモンは分解されにくいものが多く、子孫はそれに浸って生きていくことになるという。早川教授は「環境ホルモンは極めて低い濃度で作用し、深刻な影響を未来に及ぼすだけに、研究は緊急性を要する」と強調する。 





1998年(平成10年)6月14日 北國新聞掲載記事朝刊

環境ホルモン 微生物で除去
金大、先端大が合同チーム 4グループで研究 3年計画で特性解明


 金大、北陸先端科学技術大学院大の4研究グループは13日までに、生物の生殖機能などに悪影響を及ぼすと指摘される環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)を、微生物を使って分解する新たな除去法の確立に向けて、合同研究プロジェクトチームを発足させた。3年計画で環境ホルモンの種類や活性化のメカニズム、生殖機能への影響などを科学的に解明するとともに、簡便な測定法を開発し、全国の研究機関とも連携して分解除去法の確立を目指す。北陸の学術機関が共同で環境ホルモンの研究に取り組むのは初めてとなる。
 環境ホルモン合同研究プロジェクトチームには、金大から薬学部の早川和一教授(衛生分析科学)、医学部の並木幹夫教授(泌尿器科)、大学院自然科学研究科の木津良一助教授(地球環境科学)、北陸先端大から材料科学研究科の民谷栄一教授(生物工学)の各研究グループが参加した。
 環境ホルモンは、将来の世代にわたって深刻な影響をもたらす恐れがあるとして社会問題化しているが、科学的には依然、未解明な部分が多い。このため、「各研究者が専門領域を越えて早急にスクラムを組み、それぞれが持つ情報を交換して、環境ホルモンの除去に向けた研究を推し進める必要がある」(早川金大薬学部教授)として、プロジェクトチームを立ち上げた。
 主な研究テーマでは、早川教授と木津助教授の研究グループが 自動車の排ガスや粉じん、たばこの煙などに含まれる物質のうち、環境ホルモンと同様の作用を持つ化学物質の特定 環境ホルモンが生体内で活性化していくメカニズムの解明―などに取り組む。
 並木教授の研究グループは、環境ホルモンが生物の精巣や前立せんの機能に及ぼす影響を動物実験で調べる。また、民谷教授の研究グループは バイオテクノロジーの応用による環境ホルモン全体の作用の強さを測定するシステムの開発 メダカを使った生育や精子数、精細胞数に及ぼす影響の実験、調査―などに当たる。
 プロジェクトチームを取りまとめる早川教授は「全国の他の研究機関とも連携し、微生物を使った環境ホルモンの分解除去法の確立を図る」としている。

環境ホルモン 生物の体内に入るとホルモンに似た働きをして生殖機能などに悪影響を与えるとされる合成化学物質の総称。精子の減少や行動の異常、知的能力の低下を引き起こすとする報告もある。環境庁は、合成樹脂の原料として広く使われているビスフェノールAやダイオキシン、農薬のDDTなど67物質を環境ホルモンとしてリストアップしているが、未知の物質も相当数あるとされている。





北國新聞掲載記事
1998年(平成10年)5月7日 北國新聞掲載記事夕刊

環境ホルモンの警告 早川和一(金大薬学部教授)

 農薬の危険性を警告した「沈黙の春」の出版から30年余、同じ米国で一昨年「奪われし未来」が出版された。この本は、巣作りしないワシ、孵化しないワニの卵、減少するヒトの精子数などの原因がいずれも化学物質であることを明らかにして大きな衝撃を与えた。これらの物質は環境ホルモンと呼ばれ、これまでに60数種類以上が疑われている。その中にはDDTなどの農薬、食器や哺乳瓶の原料ビスフェノールA、ゴミ焼却炉から発生するダイオキシン、さらに煙草や自動車から出るベンゾピレンなども含まれている。このように環境ホルモンはいたる所に存在すると思われ、その数は更に増えるであろう。未規制有害化学物質の挙動と毒性を研究している私の身辺も俄に騒がしくなった。
 環境ホルモンは生物の生殖や発育を撹乱する。極めて低い濃度で作用し、深刻な影響が未来に及ぶために、新たな対策が必要である。しかし、現在はその検出法の開発段階で、まだ汚染の実態やそのメカニズムはほとんどわかっていない。
 「奪われし未来」はセンセーショナルに取り上げ過ぎとの意見もある。しかし、同じことを言われた「沈黙の春」の警告が正しかったことはその後の年月が証明している。環境ホルモンと疑われる物質には分解されにくいものが多く、私達の子孫はそれに浸って生きることになる。「奪われし未来」の警告が的中しないことを願いつつも、将来のために今、科学者、行政、生産者、消費者のいずれもが環境ホ

ルモンの危険性と自らの責任を認識しなくてはならない。(金沢市)