北陸中日新聞 掲載記事





2006年(平成18年)12月19日(火) 北陸中日新聞朝刊 金沢18面

ナホトカ号事故から10年
流出重油や写真 金沢大で展示会


写真=金沢大が回収した事故当時の重油=金沢市の金沢大角間キャンパスで

 ロシアタンカー「ナホトカ号」の重油流出事故十年を来年に控え、事故当時の写真や回収した重油、油のふき取りに使った薬剤などの展示会が十八日、金沢市の金沢大角間キャンパス自然科学研究科棟玄関ホールで始まった。二十二日まで。
 十九日午後一時から開催される記念フォーラムに合わせて企画された。金大の田崎和江教授らが回収し、保存した液状の重油、薬剤、汚れた作業服、写真など当時の状況を伝える生々しい資料約二百二十点並ぶ。田崎教授は「展示物をさわって、においをかいで、当時に思いをはせてほしい」と話した。(伊藤弘喜)





2006年(平成18年)12月20日(水) 北陸中日新聞朝刊 社会26面

終息宣言後が本番 ナホトカ号の遺産 重油事故から10年

 ナホトカの重油流出事故が起きてから三ヶ月が過ぎ、ボランティアらの尽力で汚れはほぼ消え、各自治体が次々と終息宣言を出した。だが、金沢大大学院自然科学研究科の田崎和江教授(六二)=地球環境科学=は考えていた。「まだ汚染は終わっていない」。研究はこれからが本番だ、と。

自然浄化を独自研究
金大大学院自然科学研究科 田崎 和江 教授


 一九九七年一月七日。ナホトカの船首が漂着した福井県三国町(現坂井市)の現場に駆けつけた田崎教授は、波しぶきの音が聞こえない海を前に戸惑った。厚さ三十センチほどの油膜が波の動きを止めていた。
 タンカーから流れ出したC重油は油業界で「釜残土」と呼ばれ、アスファルト分が多いが、除去方法などは学者たちにもほとんど知られていなかった。「非産油国の日本には油汚染の専門家が少ない。環境科学を掲げる自分が研究しなくては」。田崎教授は流出現場に通ってサンプルを採取し、夜通し研究室で分析する日が続いた。
 採取した重油を顕微鏡で観察する中で、重油を分解するバクテリアの存在を確認した。「人の手で回収しきれない重油は自然が浄化してくれる」。現場の土壌を使ってバクテリアを培養し、重油の除去効果を高める研究に取り組んだ。中和剤や高圧熱水による浄化に対し「自然体系に悪影響を及ぼす」と取りやめるように関係者に訴えた。
 しかし、多くの学者たちも、行政の終息宣言に呼応するよう、研究もトーンダウンしていった。「その場しのぎの対応では、自然を守ることはできない。こういった大規模災害の時こそ、息の長い基礎研究が必要なのに」
 毎年重油が漂着した現場の観察を続け、事故から九年を迎える昨年秋、大きな発見があった。岩にこびりついた重油痕が、ろうの原材料である無害物質「パラフィン」に変わっていた。パラフィンの裏には無数のバクテリアが存在していた跡も。自然浄化作用が実を結んだ証しだった。
 大勢の人たちの手助けと十年がかりの自然の営みにより、真っ黒に染まった海が、ようやく元の姿に戻ろうとしている。

写真=無害化した重油を手に取る金沢大大学院の田崎和江教授=金沢市角間町の同大で






2006年(平成18年)12月12日(火) 北陸中日新聞朝刊 社会 34面

ナホトカ号重油流出10年
「風化させない」体験談冊子に
金大が配布へ 研究成果や小学生感想文


 一九九七年一月のナホトカ号重油流出事故から間もなく十年。金沢大は汚染地の追跡調査や、重油回収に参加したボランティア十一人の体験談などをまとめた冊子「私たちは何を学んだか?」を出版した。(報道部・高橋雅人)
 A4変判で九十八ページ。環境を修復する実験などの研究成果や事故を学んだ小学生らの感想文も収めた。十九日に金沢市角間町の同大で開くフォーラムの参加者らに配り、販売はしない。
 編さんを担当した田崎和江教授は、被害を受けた海岸で採った砂を分析した結果、それぞれの土地で別々の細菌が重油を分解していることが分かったと紹介。「生態系を崩さないよう、薬品を使わず泥で重油を分解させるのは有効。持続可能で安全な上、低コストでもある」と指摘する。
 早川和一教授らのグループは重油が砂浜に比べ岩や石の海岸で残りやすいことを示し「海岸線の状況ごとに分類し、対応すべきだ」と強調している。田崎教授は「事故のその後を知らない人が多いのが実感。風化させてはならない」と訴える。
 フォーラムは午後一時からで入場は無料。事故当時の映像や体験談、研究成果を基に、次世代に何を伝えていくべきかを話し合う。問い合わせは、田崎教授=電話076(264)6513または6512=へ

写真=ナホトカ号重油流出事故から10年をまとめた冊子「私たちは何を学んだか?」





2006年(平成18年)12月10日(日) 北陸中日新聞朝刊 社会 27面

年中飛んでた「黄砂」
高度4000メートル春と変わらず
夏は降下しないだけ 岩坂金大教授「温暖化予測 年間調査を」


 中国大陸から飛来する黄砂は、高度四千メートルでは春だけでなく一年中飛んでいることが、金沢大の岩坂泰信教授(気象学)らの研究調査で分かった。黄砂は酸性雨を引き起こす亜硫酸ガスを吸収するほか、地球温暖化にも影響することが分かってきており、岩坂教授は「温暖化を予測する上で年間を通じた調査は不可欠」と訴えている。(報道部・高橋雅人)
 黄砂の飛来は例年四月がピークで、今年も九州から北海道まで日本各地で観測された。これまで夏は太平洋気圧の影響で量が少ないとされてきた。
 岩坂教授は一九九四年から十年余りかけて航空機で日本海上空数千メートルの黄砂を採取、そこに付着した汚染物質などを調べてきた。通常、上空の物質は黄砂が80%、海のしぶきが10%前後飛んでいるという。
 春と夏に一ミクロン以上の大きさの埃(ちり)を採取し調べた結果、黄砂は高度四千メートル未満で、夏は春の十分の一以下になり、全体量も大幅に減っていた。ところが、四千メートル以上では夏も春と変わらない量が確認された。夏は日本列島を太平洋高気圧が覆っているため、降下せず、アメリカ大陸上空まで飛んでいくという。
 岩坂教授は「黄砂は雲上では、雲による太陽光の反射を妨げ、地球温暖化を促す。海の上を飛ぶと自らが太陽光を反射し、地球の寒冷化につながる。これからは春に降る量だけでなく、高地でモニタリングするなどして集めた年間のデータを元に、温暖化を予測しなくてはならない」と話している。

黄砂 中国大陸内陸部のタクラマカン砂漠、ゴビ砂漠、黄土高原など乾燥地域で、強風によって数千メートルの高度に巻き上げられた土壌や鉱物の粒子が、偏西風に乗って日本や韓国などに飛来し、大気中に浮遊したり降下したりする現象。太平洋や米大陸まで到達する場合もある。





2006年(平成18年)10月29日(日) 北陸中日新聞朝刊 15面

連携共歩 地球守れと日中韓
 
写真=日中韓3ヵ国の大学教授らが集い、環境教育をテーマに意見交換した国際シンポジウム=28日、金沢市内のホテルで

 日中韓の各国の研究者たちが「環境教育」をテーマに討論するシンポジウムが二十八日、金沢市内のホテルで開かれた。金沢大の早川和一教授が講演し、一九九七年一月に日本海で起きたロシア船籍タンカー」「ナホトカ号」の重油流出事故による海洋汚染を例に環境保全の大切さを強調。産業と経済が発展する環日本海の現状に目を向ける一方、環境問題に対する相互理解と国際協力を呼び掛けた。(前口憲幸)

金沢、研究者集いシンポ
ナホトカ号重油流出教訓に


 地理・歴史的に結び付きが深い三カ国の政府関係者、大学教授らが集い、国境を越えて自然資源保護に取り組む国際会議。環境省によると、二〇〇〇年から各国持ち回りで開いている。日本での開催は〇三年の静岡市に次いで三回目で、日本海側では初めて。
 ナホトカ号からは積載重油一万九千リットルのうち、六千二百キロリットル余が流れ出した。早川教授は島根県から秋田県までの日本海側一府八県の海岸に漂着した事故概要を紹介。事故後二年余にわたり、能登半島や福井県の各海岸で重油の残留調査を実施したデータを示し「砂浜に比べ、岩や石の海岸では重油が残りやすい」と説明。万一の油流出事故の際は、汚染を予防する海岸の優先順位の決定や、油回収方法の合理化の重要性を説いた。
 
金大・早川教授「漁業・観光へ影響 注意を」

 流れ出した重油は世界でも報告例が少ないC重油であることを挙げ、生態系、漁業・観光資源への影響など、長期的な視野で注意を払う必要もあるとした。
 このほか、各国の専門家による「沿岸地域における環境教育」の事例発表があり、日本は金沢星稜大の池田幸應教授が石川県の海岸線五百八十三キロをきれいにする海岸愛護運動「クリーン・ビーチいしかわ」に携わり、学生とともにボランティアの輪を広げていく活動趣旨を紹介した。
 シンポジウムの冒頭、北川知克環境大臣政務官があいさつ。山岸勇県副知事、山出保金沢市長が歓迎の言葉を述べた。

 




2006年(平成18年)10月13日(金) 北陸中日新聞朝刊 13面

ナホトカ号重油事故詳細に  金大早川教授が基調講演
日中韓環境教育シンポ内容決定


 石川県が、二十八日に環境省などと共催して金沢市の金沢ニューグランドホテルで開く国際会議「日中韓環境教育シンポジウム」の内容が決まった。日本、中国、韓国の大学教授や政府関係者らが事例発表や討論を行うほか、地元から金沢大教授の早川和一氏が「ナホトカ号重油流出事故から学んだこと」のテーマで基調講演し、金沢星稜大の池田幸應教授も、ボランティアとして海岸を清掃する県内の若者の取り組みを事例報告する。
 シンポジウムは「日中韓三カ国の沿岸地域における環境教育」がテーマ。基調講演で早川氏は、ナホトカ号重油流出事故で、多くのボランティアが重油の回収に当たった状況を詳細に伝える予定。池田氏は野外活動を通じて自然の素晴らしさを学んだ体験が、若者の清掃活動につながっていることなどを紹介する。
 日中韓関係者による討論では、日本海沿岸の環境保全のために、どのような教育をすればよいか探る。土屋品子環境副大臣も出席予定で、県は会場で出された意見を今後の環境施策に生かす。
 当日は午後一時半から同四時半までで、だれでも参加できる。
 シンポジウム前日の二十七日には同ホテルで、三カ国の政府関係者のみが出席する実務者会議があり、黄砂や海岸漂着物など、共通課題の解決について協議。実効性のある対策が見いだされた場合は各国に持ち帰り、実行に移すという。(城島建治)





2006年(平成18年)6月15日(木) 北陸中日新聞朝刊 石川16面

衛星写真から森の樹冠地図
広葉樹など3分類、自動作成


 金沢大大学院自然科学研究科の村本健一郎教授(生体工学・画像処理)と久保助手(画像処理)は北陸電力と共同で、森林の衛星写真を使い、樹木一本ずつの枝の広がり(樹冠)を判別し、地図上に反映する画像処理プログラムを開発した。特許出願中で、効率的な間伐実施など森林管理や、植生変化の把握による森林保全への活用が期待される。(紙谷真)

金大教授ら処理プログラム開発

 プログラムは、地上一メートル四方の大きさを宇宙から撮影できる商業用人工衛星「IKONOS」の衛星写真を利用。衛星写真のデータを入力するだけで、樹木一本ずつの樹冠を広葉樹、針葉樹と土壌の三つに分類した地図に自動作成できるという。
 樹冠の地図化は、これまで専門の画像処理技術が必要で、密集した広葉樹では、枝が入り組むため難しかった。
 近年、自治体などでは、森林保全に役立てるため、パソコン上の地図にさまざまな森林情報を落とし込む地理情報システム(GIS)整備を進めている。プログラムはGISソフトでの利用が可能。地上での実地調査が困難な地域での情報も容易に入手でき、より詳しい森林情報が付け加えられる。
 将来的には、森林による温室効果ガスである二酸化炭素吸収量の正確な把握にもつなげたい考えだ。
 現在、精度評価のため実地調査との比較などに取り組んでいる。
 村本教授は「経年データを見れば植生変化も分かり、森林保全に活用できる」。
 久保助手は「間伐など樹木一本ずつの手入れや、台風などによる被害の把握も可能で、新たな森林管理につながると思う」と話している。

プログラムを使い衛星写真を処理した樹冠地図(黄緑:広葉樹、深緑:針葉樹、灰色:土壌)






2006年(平成18年)5月24日(水) 北陸中日新聞朝刊 石川 16面

石川テレビ賞 銅鑼の魚住さんら 受賞3人晴れの贈呈式

 第二十九回石川テレビ賞の贈呈式が二十三日、金沢市の金沢スカイホテルであり、銅鑼(どら)の重要無形文化財保持者(人間国宝)魚住為楽さん(六八)、金沢大学大学院教授の早川和一さん(五五)、石川きのこ会顧問の池田良幸さん(七六)=いずれも金沢市=の三人に賞が贈られた。
 魚住さんは祖父で人間国宝の初代・為楽さんから銅鑼製作の独自の技法を受け継ぎ、技術を磨いた。早川さんは自動車排ガスの解明や環日本海の環境計測に関する研究で国際的に高く評価されている。池田さんは県内を中心に自ら野山を歩いてきのこを採取し、細密にスケッチした「北陸きのこ図鑑」を出版した。
 贈呈式では、ITCクラブの北出不二雄代表委員が一人ずつに賞状を手渡し、受賞者代表の池田さんが「寝る間を惜しんで研究してきた。今後も力続く限り郷土の文化向上のために努力したい」と謝辞を述べた。
 石川テレビ放送の高羽国広社長は「今後ますますの活躍に期待したい」とあいさつ。山沢康志県参事兼総務部次長、東元秀明金沢市文化スポーツ部長がそれぞれ祝辞を述べた。(伊藤弘喜)

石川テレビ賞を贈呈される(中央奥から手前に)魚住為楽さん、早川和一さん、池田良幸さん=金沢市の金沢スカイホテルで





2006年(平成18年)5月21日(日) 北陸中日新聞朝刊 政治総合 2面

この人 黄砂と生物の関係を探る研究会設立 岩坂 泰信 さん
経験的に砂粒には生き物がいると考えている


 大気中には目に見えない液体や固体が浮遊する。エアロゾルと呼ばれる、この微粒子を北極圏などで長く観測をしてきた。今年は当たり年の黄砂も仲間だ。
 「上空に微生物がいるとの報告は古くからあるが、黄砂の周りにいるかなど、分かっていないことが多い。経験的に砂粒には生き物がいると考えている。その関係を明らかにしたい」とバイオエアロゾル研究会設立の抱負を語る。
 「例えば、南極の地衣類がなぜ繁殖するのかといった、生態の広がりの解明に貢献したい」
 今年の黄砂は「発生地の降水量が少なかったのが第一の要因。タクラマカン砂漠の乾燥は続くようで、黄砂も今後、しばらく続くかもしれない」とみる。
 今春、黄砂を吸った数少ない一般向け読み物「黄砂その謎を追う」(紀伊国屋書店)を出版した。「反響は予想以上。黄砂については科学的な結論が出ていないことが多く、“考え中”であると、きちんと書いたことがよかったのか」
 十年前に会った時「エアロゾルが小学校の教科書に載るようにしたい」と夢を語っていた。「今回の出版で、一般の人には少し近づけたが、小学生にはまだ届きませんね」と笑った。
 金沢大学自然計測応用研究センター教授。名古屋大名誉教授。富山県高岡市出身、六五歳。(大島弘義)






2006年(平成18年)4月26日(水) 北陸中日新聞朝刊 社会28面

石川テレビ賞に3人 銅鑼の人間国宝・魚住さんら

 地域の発展と地方文化の向上のために活動しているITCクラブは二十五日、第二十九回石川テレビ賞に銅鑼(どら)の重要無形文化財保持者(人間国宝)の魚住為楽氏(六八)、金沢大学大学院教授の早川和一氏(五五)、石川きのこ会顧問の池田良幸氏(七六)=いずれも金沢市=の三氏を選んだと発表した。
 魚住氏は、祖父の初代為楽氏から音色の良い銅鑼の製作技術を継承。二〇〇二年、人間国宝の認定を受けた。
 早川氏は自動車の排ガスの毒性とその解明、環日本海の環境計測と変動予測の研究が国際的に高く評価されている。
 池田氏は約五十年にわたり県内のキノコ研究を続け、多数の未発表種を含め、成果を「北陸のきのこ図鑑」にまとめた。
 贈呈式は五月二十三日、金沢市の金沢スカイホテルで開かれる。地域社会や文化の向上に貢献した個人や団体に贈られる石川テレビ賞は一九七八(昭和五十三)年に始まり、前回までに百三十三人と十二団体を表彰した。






2006年(平成18年)4月14日(金) 北陸中日新聞朝刊 14面

100年探していたオスいた! 金沢大の神谷教授ら カイミジンコで確認

 雌だけで二億年間生息してきたと考えられてきた微小生物カイミジンコの雄を鹿児島県の屋久島で発見したと、金沢大の神谷隆宏教授(四八)=写真=らの研究グループが十三日、発表した。この成果は学術雑誌「英国学士院紀要」電子ジヤーナル版に掲載された。
 雌から雌が生まれる無性生殖生物は理論上、長期間生存できないとして、世界の生物研究者が百年以上探してきたが見つからず、生物界の謎とされてきた。
 研究グループは、神谷教授のほか、かつて金沢大で博士研究員を務めた滋賀県立琵琶湖博物館学芸員のロビン・スミス博士らでつくる。二〇〇三年三月、屋久島の海岸近くのわき水からカイミジンコを採取して調べた結果、数百個体の雌と同時に、雄性生殖器を持つ雄三個体を確認した。
 これまでの研究で、雄は約三億六千万−二億年前に生息していたが、二億年前以降になると、雌と幼体の化石だけしか見つかっていなかった。今回発見した雄は雌の幼体と酷似した形と大きさの殻を持っていた。同博物館は「過去の研究では雄を雌の幼体と見誤っていた可能性もある」とみている。





平成18年(2006年)4月13日(木) 北陸中日新聞朝刊 社会29面

“共通の敵”黄砂解明を

 中国の砂漠で発生し、日本国内では春先に観測される「黄砂(こうさ)」の実態を調べるため、金沢大の岩坂泰信教授(六十四)=大気物理学=の研究グループは五月、中韓両国と連携した実験にに乗り出す。大気中の微細粒子を観測するセンサーを気球につり下げて中国から飛ばし、得られたデータを各国の地上基地にリアルタイムで配信する。黄砂と一緒に偏西風に乗せた“観測バルーン”で、国境をまたぐ環境問題を解明する。(報道部・前口憲幸)

観測バルーン実験日中韓がスクラム 金大グループ来月実施

 黄砂は米国や欧州各国でも研究途上にあり、地球温暖化や酸性雨との関係など未解明な部分が多い。大気中に浮遊する黄砂粒子は航空機を使った採集が主流だが、大幅なコストがかかる上、機体が高速でスムーズに採集器に入らないという難点があった。
 岩坂教授は一九九〇年代から気球観測に着目。砂漠上空の黄砂濃度を調べるため、二〇〇〇−〇三年には中国・タクラマカン砂漠の東に位置する敦煌に観測拠点を設けて気球を飛ばした。こうした実績を踏まえ、中国科学院大気物理研究所(北京)と協力し、三カ国連携調査に踏み切った。
 黄砂は中国内陸部の砂漠の吹き上がり、偏西風に乗って大陸から朝鮮半島を経て日本へ届く。岩坂教授の研究グループは五月初旬に中国・青島で放球。観測拠点を石川工業高等専門学校グラウンド(石川県津幡町)に定め、中国・青島市海洋気象台、韓国・安眠島にも受信アンテナを建て、観測網を整える計画だ。気球はゴム製で直径約三メートル。重さ約十キロと軽く、搭載したセンサーが高度や気圧、気温をはじめ、大気中の微細粒子のデータを収集し、電波信号に換えて各国の地上基地へ配信する。
 気球はゆっくりと上昇しながら東へ進み、約十二時間後には日本海を越える見込み。日本上空で高度約十キロに達し、直径は気圧の差で七−八メートルに膨らむという。

粒子データ3国基地配信

 黄砂対策は広域課題のため、国際連携が不可欠。中韓両国では呼吸器疾患などの健康不安や農作物被害が深刻で飛行場閉鎖や放牧した家畜が畜舎に戻れなくなる事態も招いている。日本への飛来も増加傾向にあり、金沢地方気象台では今春に三回観測。洗濯物や自動車が汚れるケースもある。
 砂漠で採集した砂と日本に飛来した黄砂の粒子成分は異なっており、岩坂教授は海洋を横断させる実験意義を強調。「気球が各飛来ポイントで正確に情報発信できれば、かなり有効な研究成果が期待できる」とした。







2006年(平成18年)4月12日(水)

北陸中日新聞朝刊 1面

金沢大大学院自然科学研究科の御影雅幸教授(薬学部付属薬用植物園長)は11日、金沢市角間町のキャンパス内に移転整備する新たな薬用植物園で栽培した薬草を、薬局で販売する構想を明らかにした。同園は薬用植物園として、大学レベルで全国最大級。さまざまな実験や研究ができ、質の高い薬草の提供が可能。全国でも例がない試みという。(報道部・沢田一郎)

金大キャンパスに新薬用植物園
栽培の薬草市民へ販売 御影教授「研究成果を還元」


 新園は約三万八千平方メートル。昨年十一月に整地が終わり、本年度から本格的に植樹が始まった。国内外を含め、一千種類の薬草をそろえる方針。
 日当りが悪く、十分の一以下の広さだった旧園(同市宝町)では、植木鉢による栽培が中心で研究も限界があった。新園では、花壇や温室、ほ場、ロックガーデンなどを整備し、さまざまな条件で、多種類の薬草、薬木を育てながら研究できる。

内外から豊富1000種

 薬草販売は、研究成果を市民に還元するため発案。同大薬学部OBでつくる特定非営利活動法人(NOP法人)「ハート」が運営するアカンサス薬局(同市宝町)での扱いを検討している。
 適地のある薬草もあるため、全国の薬用植物園と連携して、必要な薬草を栽培する。
 ドクダミは解毒、オウレンはのぼせや高血圧、イチョウは認知症の予防などに効果があるとされ、市民を対象に本年度から月一回程度、薬草の効能や正しい利用法などに関する勉強会も実施する。
 御影教授は「栽培した薬草が、天然と同じ薬効を持つよう最先端の研究を進め、成分、安全性、品質がしっかりしたものを供給したい」と意欲を見せている。

写真:薬草の先端研究と市民への還元を説明する御影教授=金沢市角間町の金大薬学部付属薬用植物園で





2006年(平成18年)3月4日(土) 北陸中日新聞朝刊 1面

カンボジアの新種魚
調査尽力の金大助教授 栄誉「ツカワキイ」


 カンボジアのトレンサップ湖で発見されたネズッポ科の魚に「Tonles apia tsukawakii」(トレンサピア・ツカワキイ)の学名(ラテン語)がついた。発見者の鹿児島大学総合研究博物館の本村浩之助教授(三二)が、調査チームの代表を務めた金沢大学自然計測応用研究センターの塚脇真二助教授(四六)にちなんで命名した。新属新種であることを記した論文が、ドイツの専門誌「淡水の魚類研究」三月号に掲載され学名も認定された。
 属名の「トレンサピア」は、発見地のトレンサップ湖を表し、種名の「ツカワキイ」の部分が塚脇助教授にちなむ。塚脇氏が同期などを総合的に調査研究しているチーム「EMSB」の代表を務めていることに敬意を表した。
 塚脇氏は十数年ほど前に単独で地質調査に入り、その後は仲間を増やして、科研費やユネスコなどから研究費を受けるなど、研究推進に尽力。昨年十二月には、カンボジアの閣僚などにも同湖の研究成果を説明している。自分の名前が付けられたことに「うれしいの一言」と喜んでいる。
 名前がついた魚は、体長が三センチ前後の小魚。湖底にすんでいるため、目がヒラメのように上に並んでついている。仲間は百八十二種類確認されているが、淡水産なのは今回が初。ただ、この四年間、本村助教授が捕獲したのはたった四個体で、いずれも成熟した雄だった。「トレンサップ湖の固有種だが、非常に少なくなっているようで、今後が心配」と話している。





平成17年(2005年)11月29日(火) 北陸中日新聞 朝刊 17面

温暖化対策話し合う 金沢で公開シンポ始まる

 地球温暖化への対策や研究内容を話し合う公開シンポジウムが二十八日、金沢市内のホテルで二日間の日程で始まった。東アジアの植生の将来像を予測するモデルを開発しようと、日中韓の研究者らが参加した「東アジアの環境モニタリングプロジェクト」が企画。初日は独立行政法人・国立環境研究所の原沢英夫さんら研究者三人が研究内容を発表した。
 原沢さんは昨年の猛暑や台風の上陸、一昨年、ヨーロッパを襲った熱波などの異常気象について「温暖化の影響が表れている今、国民一人一人の削減努力が重要」と訴え、環境省などが進める「チーム・マイナス6%」の取り組みなどを説明した。このほか、早稲田大人間科学学術院の森川靖教授、金沢大学大学院自然科学研究科の鎌田直人助教授が講演した。
 プロジェクトは、研究者が専門の領域を超えて協力し、東アジア地域の環境問題に取り組むため、一九九七年度に始まり、本年度が最終年度となる。
 二十九日は、三カ国のプロジェクトメンバーが研究を発表する。午前九時半から午後五時半まで。金沢大の自然科学研究科棟(金沢市角間町)で。参加無料。発表はすべて英語(白名正和)






2005年(平成17年)11月19日(土) 北陸中日新聞 朝刊 18面

小松の廃鉱で微弱な放射能測定
金大・小村教授 開始10年

尾小屋から世界に「驚き」

尾小屋から世界に誇れる発見を−。閉山になった小松市尾小屋町の旧尾小屋鉱山のトンネルを利用した金沢大自然計測応用研究センターの低レベル放射能実験施設で、価値ある研究が次々と生み出されている。低レベル放射線測定では「世界一」の施設を手弁当でつくった小村和久教授は、さらに施設整備を進め、将来は一般にも公開したいと意気込む。測定開始から十年を経た施設を訪ねた。(報道部・松岡等)


機器12台 最大規模


 ヘルメットをかぶり、ひんやりしたトンネル内に入ると、やがて岩がむき出しの天井からぽたぽたと水滴が落ちてきた。「垂れ下がっているのは鍾乳石」と案内の小村教授が指差す。壁からマンガンやカルシウムがしみ出す場所があり、わずかな電球の光で光合成して生き延びるシダ類が生える。小村教授は「科学教材の宝庫。安全が確保できれば子供たちに見学させたい」という。
 長さ約五百五十メートルのトンネルを半分ほど進むと裸電球のほのかな明かりの中に、プレハブ小屋が見えてきた。厚さ百三十五メートルの岩盤に覆われた位置は水深二〇七メートルの地下に相当する。この“深さ”が、透過力が強い宇宙線の“雑音”から、極低レベルの放射線を測定する「ゲルマニウム半導体検出器」を守る。
 小村教授は前任の東大原子核研究所時代に千葉県鋸山の地下測定室で研究を行ってきたが「世界と競うには測定のレベルが一けた足りなかった」。金沢大に赴任して、測定室に適した場所探しに奔走。一九八九年、尾小屋についての報道をきっかけに場所を決めた。ウラン含有量が低い凝灰(ぎょうかい)岩に囲まれ、小松空港に近い測定試料を素早く運べる立地は好都合だった。
 放射線を遮へいするため測定器を囲い込む鉛の調達にも「他の利」があった。精錬したての鉛は、わずかながら放射性の鉛を含み遮へいには使えない。ところが、金沢城内(金沢市)で解体された建物の鉛瓦から二百年以上前につくられた鉛が大量に確保できた。
 ただ、閉山から三十年近く経過したトンネル内は当時、古びたトロッコが放置され、電気も通じない状態。小村教授は「研究が始められる状態にするまで、家族の助けを借りてツルハシとスコップを抱えて三年通った」と苦笑いする。


新発見続々 施設一般公開の夢も

 地下で測定が始まったのは一九九五年六月。同年二月に旧根上町(現能美市)に落ちた「根上隕(いん)石」が、最初の試料になった。宇宙線を浴びることで生成する隕石特有の微量の放射性核種を検出。施設は一般にも知られるようになり、小村教授の元には神戸、つくばの隕石など次々に試料が持ち込まれるようになる。一方で、高山帯や飛行機搭乗時の実験で、これまで見つかっていなかった二十種類以上もの新しい放射線核種の検出に成功した。成果を挙げつつある中、九九年九月に起きた茨城県東海村のJCOウラン加工施設でノ臨界事故では、小村教授が文科省の緊急特別調査団代表を務め、施設外に漏れた中核子の影響評価に貢献した。
 また、四五年八月の原爆で被爆した銀から、既存の測定方法より感度が千倍以上もある放射性核種を検出。広島、長崎での中性子被ばくによる人体への影響評価に新たな道を開いた。
 現在、検出器十二台という規模は世界最大。年内にも十五台に増やす計画が進んでいる。ただ、二棟のプレハブには測定器を冷やすための液体窒素タンクやパソコンなどが詰め込まれ、決して恵まれた環境とは言えない。
 「トンネル内も崩落があってもおかしくない状況。だが、負のイメージが強い廃坑から明るい話題を提供したい」。小村教授は将来、すぐ近くにある尾小屋鉱山資料館とタイアップすることも考え「測定室をだれでもが見学できるようにもしたい」と話している。





2005年(平成17年)10月18日(火) 北陸中日新聞  朝刊 社会 26面 

大気汚染韓国で深刻化 
ため池に鉛が蓄積 有鉛ガソリン原因 金大大調査


 湖などの底の堆積(たいせき)物に含まれる鉛の濃度を測定することで大気汚染の状況を調べている金沢大学自然計測応用研究センターのグループが、韓国のため池と琵琶湖の堆積物を調査し、韓国で有鉛ガソリンの使用による大気汚染が深刻化しているとの結果をまとめた。金沢市で十七日から始まった共同研究集会で報告する。
 調査したのは同センターの柏谷健二教授(自然地理学)佐藤努助教授(環境鉱物学)と大学院生の玉村修司さん。
 大気汚染は過去にさかのぼって調べるのは難しいが、鉛など堆積物を分析することで、当時のデータを得ることができる。

堆積物中の鉛
鉛は有鉛ガソリンで車を走らせるなどした場合、鉛が大気中に飛散し、雨に流されて堆積する。ガソリンには鉛のほか亜鉛や銅なども含まれているが、雨などとともに流されやすく、大気汚染のデータを得るには鉛が最も適している。日本では1970年代に有鉛ガソリンの規制が始まり、韓国でも10年ほど遅れて規制が始まったという。







2005年(平成17年)10月3日(月) 北陸中日新聞 朝刊 社会 28面

上空の現象 解明の手がかりに
宇宙からの“手紙”雨の中から発見
金沢大小村教授ら放射性核種8種を同時測定


 大気中の自然の核反応でできる放射性核種のうち、これまでは測定が難しかった半減期一日以下の核種を、雨水の中から複数、同時に測定することに、金沢大の小村和久教授(環境放射能)と同大学院の桑原雄宇さんが成功した。降水条件などを加味したモデルができれば、上空で数時間前に起きた気象現象の解明や、環境への影響をさらに詳しく解析する手がかりになりそうだ。(報道部・松岡等)
 大気上層では、エネルギーの高い宇宙線と、大気中の窒素、酸素、アルゴンなどの核反応で、絶えず微量の放射性核種が生成されている。うち半減期が比較的長く検出が容易なベリリウム7(半減期約五十三日間)やナトリウム22(同約二.六年間)はこれまでも大気や水循環の追跡に利用されている。
 しかし半減期が短い放射性核種は極めて量が少なく放射能も低いうえ、測定までの時間が限られているため、ほとんど測定されていなかった。
 小村教授らは多量の雨水を施設小屋から雨どいで集め、必要量を数分で確保。微妙なγ線を測れる世界最高レベルの放射性物質測定器十二台を備える同大自然計測応用研究センター低レベル放射能実験施設である尾小屋地下測定室(石川県小松市)のメリットを生かし、短時間での分離濃縮、測定を実現した。
 確認されたのは、塩素39(半減期五十五分)、ナトリウム24(同十五時間)、マグネシウム28(同二十一時間)など八種類。今後は雨雲の高さや、雨による大気浮遊物質の洗浄効果の影響も考慮し、精度を上げることが課題という。
 小村教授は「加賀市出身の中谷宇吉郎は雲を「天から送られた手紙」と呼んだが、「雨は宇宙からの手紙」とも考えられる。この手紙に書かれたたくさんの情報から何を読めるかが楽しみ」と話している。






2005年(平成17年)9月22日(木) 北陸中日新聞 朝刊 30面

金大・小村教授
原爆中性子を高感度検出 人体被ばく量の新指標に


 金沢大の小村和久教授(環境放射能)は、一九四五年八月に広島市内で被爆した銀から、原爆などによる中性子の検出感度が既存の方法より千倍以上もある放射性物質の検出に成功した。この物質は「銀108m」と呼ばれるもの。被爆者が身に着けていた銀製の指輪やロザリオなどを調べれば、個人が受けた中性子線量を特定できるという。
 中性子被ばくによる人体への影響を評価する新指標になると期待される成果で、二十八日から金沢市内で始まる日本放射化学会年会で発表される。
 小村教授が調べたのは、四五年八月に広島市で被爆し、広島原爆資料館で保管されていた銀製の勲章。超微量のガンマ線が測定できる世界トップレベルの尾小屋地下測定室(石川県小松市)で解析したところ、通常は百七個ある中性子の数が一つ多い銀の原子「銀108m」を検出した。長崎原爆資料館から借りた真ちゅう製のスプーンや懐中時計からも「銀180m」が出た。
 中性子を評価する物質は従来、コバルト60やユウロピウム152が用いられてきたが、崩壊で原子数が半分になる半減期がコバルト60で五.三年、ユウロピウム152で一三.三年と短く、戦後六十年を経た現在では爆心から一`以上離れた所での検出が極めて難しい。
 これに対して「銀108m」の半減期は四百十八年と長く、試料を破壊せずに測定できる上、ガンマ線の放射率はユウロピウム152に比べて十倍以上だった。これから小村教授は、ユウロピウム152の千倍以上の感度があると考えている。このため、広島では爆心から1.6`、長崎1.4`以内で採取された試料でも「銀108m」の検出は可能という。






2005年(平成17年)9月17日(土) 北陸中日新聞 朝刊 30面

大学業務実績 金沢大は「計画通り」
文科省評価委員「COE」など評価


 文部科学省の国立大学法人評価委員会が十六日に発表した全国の国立大学法人や大学共同利用機関法人の二〇〇四年度業務実績についての評価で、石川県内では金沢大(金沢市)と北陸先端科学技術大学院大(能美市)は、業務運営の改善・効率化や財務内容の改善、自己点検・評価と情報提供などで、いずれも「計画通り」または「おおむね計画通り」に進んでいると評価された。
 金沢大は、管理運営体制の機能など十三項目で自己点検・評価を行い、情報公開も含めて「計画通り」と評価された。
 学長裁量の人員枠を確保し、先駆的な研究に取り組む「二十一世紀COE(卓越した研究拠点)プログラム」支援などに充てるなどしたが、一方で事務職員の抑制、再配置の具体的な財政計画の検討が残されており、業務運営の改善・効率化と財務内容の改善は「おおむね計画通り」だった。
 先端大は、県産業創出支援機構と合同で新技術についてのセミナーを開き、地元企業との産学連携を進めて外部資金を前年度比12%(約二億二千万円)増を確保。財務内容の改善は「計画通り」とされた。自己点検・評価への取り組みと、業務運営の改善・効率化は「おおむね計画通り」。教員と事務職員が一体で重要課題に取り組む「タスクフォース制度」は「課題となっている優秀、個性的な学生の確保などの面で成果を期待」とした。(報道部・青木真)





2005年(平成17年)9月15日(木) 北陸中日新聞 朝刊 30面

身近な用水ホタルの様子は?

 石川県と金沢大はことしから、志賀町(旧富来町)尊保地区の用水路でホタルの生息調査に乗り出した。国の補助金を得て、調査には地元住民たちも参加している。将来はヤマメやドジョウなど、多様な水生生物が生息できる用水路を実現するのが目標だ。(報道部・伊藤弘喜)
 調査は石川県のほか、愛知など四県と研究機関の共同研究「自然再生のための住民参加型生物保全水利施設管理システムの開発」の一環。農林水産省の公募型委託事業に採択され、総事業費は約二億円。各県がモデル地区を設置し、二〇〇七年度までに農家や住民が参加する農業用など用水路の管理システムづくりを目指す。


志賀の尊保地区 県と金大が生息調査 

 石川県では尊保地区で、金沢大の鎌田直人助教授(昆虫生態学)らのグループが住民と六月から調査をスタートさせた。同地区の農業用水路は流速をコントロールしたり、水草が生えやすくした工法で作られており、それぞれの効果を比較する。参加する集落の十五家族はホタルの成虫が活動する六月下旬から約二週間、水路を回り、見つけた場所や日時を地図に記録した。現在、分析を進めている。
 
住民も参加 流速管理などの効果比較

 金大グループは金沢市内の辰巳、大桑など他の五つの用水路でも調査しており、尊保地区の結果と合わせて、住民が用水路を主体的に維持、管理できるマニュアルを作成する。
 鎌田助教授は「ホタルの状況や生息場所を調べる作業は、地元の人たちが自然を見つめ直すきっかけになる。かつてのように地域の用水路で、多様な生物が観察できることにつながればうれしい」と期待する。
 地元の飯山範雄区長(五六)は「前からホタルがいるのは知っていたが、一カ所に三十匹以上集まっているのを見た時は驚いた」と話した。






2005年(平成17年)9月11日(日) 北陸中日新聞 朝刊 16面


森づくり進めすみ分けを 県主催シンポ クマとの共生探る
6氏が意見交換


 人間とクマとのかかわり方を考える県主催シンポジウムが十日、金沢市鞍月の県地場産業振興センターで開かれた。昨年、クマが人里で異常出没した事態を受けパネルディスカッションでは猟友会や森林組合などクマにかかわる六人が意見交換。「クマの実態を把握して、人とクマがすみ分けられる森づくりを進めよう」とした。(白名正和)
 パネリストは日本熊森協会県支部の三井明美支部長、県森林組合連合会の新明侃二代表理事専務、県猟友会の辻恵一副会長、JA手取の浦久美子女性部長、金沢市農林基盤整備課森づくり推進室の太田智明主査、金大理学部の中村浩二教授。県立大学の丸山利輔学長が司会進行を務めた。
 浦部長は実体験をもとに「クマの出没で山間部では夜間外出ができなくなり、子供たちはバス通学になった」と報告。辻副会長は「(クマの処分は)断腸の思いでした」とする一方、新明専務は「クマの(樹木の)皮はぎは、山の持ち主にとっては大きな被害。その心情をくんでほしい」と複雑な思いを語った。
 このほか県自然保護課の野崎英吉課長補佐は、県内で昨年度、八市町で千百十九件の目撃、痕跡の情報が寄せられたことなどを報告。県林業試験場の小谷二郎専門研究員は、昨年の異常出没の一因と見られたクマのエサになる木の実について、今年はブナが大豊作、コナラが豊作になるとの見通しを示した。
 シンポジウムの冒頭では、日本哺乳(ほにゅう)類学会長の三浦慎悟・新潟大学教授が「森林の管理と野生動物保全の課題−クマを例として」と題して基調講演した。






2005年(平成17年)9月5日  北陸中日新聞 朝刊 15面

「いしかわ学」極めて 市民公開講座スタート

 県内の大学と短大、高等専門学校が参加し、高等教育の充実に取り組む「いしかわシティカレッジ」の市民公開講座が四日、金沢市広坂の県広坂庁舎一号館で始まった。「いしかわ学」と銘打ち、二十九日までに歴史と文化▽自然環境▽医療▽ものづくり−の四ジャンルで、計十四講座が開かれる。
 第一回講座では、金沢大学大学院自然科学研究科の鎌田直人助教授が「森の虫はクマの敵?−昆虫から石川の森を考える」と題して講演。クマのエサであるブナの実が虫に食べられ、「ナラ枯れ」でミズナラが減少しているとし「抜本的な対策を取らなければいけない」と強調した。
 各講座は定員七十人。受講希望者は事前の申し込みが必要だが、空きがある場合のみ、講座当日の参加も受け付ける。問い合わせはいしかわシティカレッジ事務局へ(白名正和)






平成17年(2005年)4月9日 北陸中日新聞 朝刊

発がん物質 黄砂運び役? 金沢大が市内の大気観測

 石炭燃料などが不可全燃焼すると発生し、発がん性物質も含まれる多環芳香族炭化水素(PAH)の大気中の濃度が、金沢市内で春に高くなることが、金沢大自然計測応用研究センターの佐藤努助教授(40)らの観測で分かった。中国大陸などで発生したPAHが、黄砂に吸着して日本海を飛び越えて飛来した可能性が高く、観測グループは中国をはじめソウル、ロシア・ウラジオストクなどで本格的な調査を始める。(報道部・沢井秀和)

 観測グループは佐藤助教授のほか、自然科学研究科博士課程の玉村修司さん(28)、早川和一教授(54)ら。PAHと黄砂を関連づけた通年の観測は世界的にも例がなく、成果は5月に千葉で開かれる地球惑星科学関連連合同学会で発表する。

春の濃度飛来後2−3倍 人体に影響ないレベル

 観測は一昨年4月から昨年4月まで、金大キャンパスの里山にある気象や空気中の花粉などを調べる「環境計測タワー」で実施。空気を集めて粉じんを吸着したフィルターを毎週、回収して成分を分析した。
 観測では、黄砂が運ぶ大きな粒子に占めるPAH濃度を、黄砂が含む濃度と想定。黄砂によらない小さな粒子の濃度と比較した。その結果、PAHの中で高い発がん性が指摘される「ベンゾaピレン」の濃度は、黄砂が飛来した4月9日−25日分が、飛来しなかった3月28日−4月9日の3倍に達した。またクリセンなど他のPAH濃度も、黄砂が飛来した4月中旬の2−3倍だった。ただ、いずれも人体に影響するレベルではないという。

大陸でも本格調査へ

佐藤助教授は「PAHが中国大陸のディーゼルエンジンや石炭燃料の不完全燃焼に由来することが示せれば、広域大気汚染の浮き彫りにすることができる。それには中国、韓国、ロシア、能登半島で観測する必要がある。将来は黄砂が飛来する春、PAHの発生源の国に排出しないよう求める基礎データにもなる」と話している。

多環芳香族炭化水素
酸素が不足した状態で燃焼された場合に生成される。ベンゼン環を中心に結合し、安定性が高く毒性がある。石炭燃料やディーゼルエンジンなどの不完全燃焼で発生する。

黄砂
ゴビ砂漠などアジアの乾燥地帯で細かい粉じんが風で吹き上がり、大量の砂塵(さじん)が上空の偏西風に運ばれて日本、韓国、中国に降下する現象。空が黄褐色になる場合もある。春先におおくみられる。





2005年(平成17年)3月29日 北陸中日新聞 朝刊 1面

ヒ素除去にナノ鉱物 汚染液体浄化に活用も
金大・佐藤助教授メカニズム解明


 猛毒で知られ、和歌山の毒カレー事件で使われたとされるヒ素が、超微細な「ナノ鉱物」と結合し、安定した化合物になるメカニズムを、金沢大自然計測応用研究センターの佐藤努助教授(40)が世界で初めて解明した。研究成果は米国の科学誌「エンバイロメンタル・サイエンス・テクノロジー」の3月号に発表した。(報道部・沢井秀和)
 佐藤助教授は、ヒ素が主成分の鉱石が川の上流域で廃棄されても、下流で鉱毒汚染が起きないことに着目。群馬県のヒ素鉱山廃石場を流れる川を調べ、何ら対策を講じていないのに、ヒ素の濃度が上流で高く、下流で低いことを突き止めた。そしてヒ素が超微細な鉱物「シュベルトマナイト」に吸着し、集まっていることを発見した。
 さらに、結晶構造が変化しやすい不安定な物質のシュベルトマナイトが、ヒ素と結合すると長時間変化せず、自然界に安定して存在することを明らかにした。
 結晶構造を分析した結果、シュベルトマナイトは鉄と酸素でつくる骨格に硫酸が吸着しているが、ヒ素との化合物では、この骨格に硫酸に代わってヒ素が結びついていることが分かった。さらにナノ鉱物の特性や安定性をモデル化することにも成功した。
 佐藤助教授は「汚れた液体はナノ鉱物のフィルターを通してやることで、ヒ素が吸着して毒性を除去できる。鉛や六価クロムなどの毒性物質を吸着するナノ鉱物を自然界で見つければ、浄化材として活用できる」と話している。

ナノ鉱物
数〜数百ナノメートル(1ナノメートルは百万分の1ミリ)の大きさをもつ超微細鉱物。サイズがあまりにも小さいために、結晶構造が不安定なケースが多い。シュベルトマナイトの場合、酸性鉱山排水に生きる鉄酸化細菌が、鉄イオンを急激に酸化させるなどして生成されるが、すぐに別の鉱物へと変化してしまうとして知られている。






2005年(平成17年3月2日) 北陸中日新聞 朝刊 社会 32面

環日本海の環境データ 金大中心に一元化へ
戦略研究機構金沢で初会議 ネットワーク構築




 日本海を取り巻く大学や行政の研究機関が参加した「環日本海環境戦略研究機構」の第1回会議が1日、金沢市内で開かれ、金沢大(金沢市)が中心になって大気、水、土壌などの環境計測データを一元化するネットワークを来年3月をめどにつくる方向となった。
 会議は、2002年度から国の「21世紀COEプログラム」の採択を受けて「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」の研究を進める金沢大が開催。北大西洋行動計画(NOWPAP)富山事務所、国立環境研究所、日本海区水産研究所、北海道環境科学センター、富山県環境科学センター、三重大、島根大、福井県立大などの関係者約30人が出席した。
 会議では「データベースを管理するには膨大なお金や人がいる」「都道府県のセンターが地道に積み上げた計測データが自分たちが解析する前にほかの研究に使われるのは抵抗がある」「行政と対話を重ねて、互いに必要とするデータを提供し合うことが大切」などの意見が出た。
 3月2日には、国際ワークショップがあり、中国と北朝鮮の国境にそびえる長白山(2,744メートル)に黄砂を観測する基地の開設に向けて具体的な協議が行われる。





2005年(平成17年)3月1日 北陸中日新聞 朝刊 1面

中国・北朝鮮国境の「長白山」 「黄砂」観測へ拠点
金大と中韓協力、夏にも設置"環境"学校も



 中国と北朝鮮の国境にそびえる長白山(2,744メートル)に、黄砂を観測する基地が今夏にも、金沢大(金沢市)をはじめ中国と韓国の研究所によって設置される。長白山は大陸から日本に向けて飛来する黄砂の通り道で大気汚染の実態を把握し、黄砂の飛来予測を目指す。世界の大学から大学院生を受け入れ、環境を学ぶ"学校"としても利用したい考えだ。(報道部・沢井秀和)
 計画を進めるのは、日本の黄砂研究の第一人者、金沢大の岩坂泰信教授をはじめ、地球温暖化問題に詳しい中国科学院大気物理研究所の石広玉教授、韓国漢陽大の金潤信教授ら。関係者によると、標高1,000メートルを超える高山で大気を中心とした観測拠点がつくられるのはアジアでは初めてという。
 基地では、大気中の黄砂をはじめ汚染物質などを調べる。中国側の山頂付近で、冬期を除き約20人が活動できるような施設とする。今夏から予備観測に入り、順次、調査項目を増やす。
 数年後には北京や能登半島など日本海側での基地開設も視野に入れている。
 長白山は渡り鳥の中継地でもあり、生態系調査も検討している。
 黄砂をめぐっては、中国が5段階で発生を予報し、韓国では健康被害との関係が調べられ、社会問題としてとらえられている。日本でも、視界不良で航空便が欠航するなどの影響も出ている。
 黄砂が発生する中央アジアのタクラマカン砂漠東部に10年前、名古屋大などが基地を設けて観測を開始。ネットワークの充実が求められており、韓国の金教授が長白山の基地づくりを提案していた。
 28日から金沢市で始まったシンポジウム「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」(金沢大主催)で細部を詰める。
 金沢大の岩坂教授は「日本海に飛来する前の黄砂の状態を把握する意義は大きい。中国、韓国と共同設置することで、各国の研究成果を共有できる。大学院生を短期間受け入れ、次世代の研究者を育成したい」と話している。

黄砂 ゴビ砂漠などアジアの乾燥地帯で細かい粉じんが風で吹き上がり、大量の砂塵(さじん)が上空の偏西風に運ばれて日本、韓国、中国に降下する現象。空が黄褐色になる場合もある。春先に多くみられる。






2005年(平成17年)2月28日 北陸中日新聞 朝刊 17面

日本海と食との関係 金沢大21世紀COEシンポ 市民ら理解深める
専門家ら講演




 金沢大学21世紀COEプログラム「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」主催の第3回シンポジウムが28日から金沢市内で開かれるのを前に、市民向けの公開講座が27日、同市広坂の県生涯学習センターであった。気象や歴史などの専門家たちが講演し、日本海の環境が北陸地方の食文化に与えた影響などについて知識を深めた。
 この中で、金沢大文学部の古畑徹教授は「日本海交易の発展と昆布」と題して講演。「昔から昆布は地元(北陸)で採れないのに、消費量は多いという特徴がある」とし、日本海の海流がさほど速くないために、帆船をコントロールしやすく、産地の北海道との交易が盛んになったと解説。そして、北海道産の昆布が肉厚だったことから、削ってとろろ昆布にする方法が編み出され、今も北陸地方の食べ方の特徴となっている、とした。
 シンポジウムは3月2日まで、国内外の専門家による研究発表や「環日本海環境戦略研究会議」などを開き、研究者のネットワークを形成していく。(飯田竜司)






2005年(平成17年)2月22日 北陸中日新聞 朝刊 社会 28面

金沢城復元「自然生かす視点で」
金大大学院中村教授 検討委でアセス提案


 「埋蔵文化財の調査や玉泉院丸の庭園復元で、自然環境がどんな影響を受けるのか、事前調査(アセスメント)をしてほしい」。石川県庁で21日開かれた金沢城復元基本方針検討委員会で、金沢大大学
院自然科学研究科の中村浩二教授(生態学)が、自然を生かす視点の大切さと、動植物を含む総合モニタリングの必要性を説いた。
 公園の生態については、金沢大のキャンパスがあった1980年代から大学関係者による調査がスタート。中村さんらの調査で、90年代初期には1417種だった昆虫が04年に708種に減少するなど、生物の多様性が失われつつある実態が明らかになっている。
 中村さんは委員会の席上配った提言書などで「金沢城公園はかつては周囲の山と『緑の回廊』でつながっていたが、今は孤立している。湿性園や堀への外来動植物の持ち込みに注意すべきだ」と注文。「自然生態系の復元を目指すのか、人工的庭園を中心として都市公園とするのか、長期的管理計画が必要」とし、森としての生態系が残っている玉泉院丸や藤右衛門丸などで早期に調査をするように求めている。
 中村さんは「金沢城公園は全国の大都市には例がない豊かな自然資産で、渡り鳥の中継地としても重要。整備と生態系保全の折り合いを付ければ、金沢のイメージアップになる。公園の自然を生かすかが、問われている」と話している。






2005年(平成17年)2月19日 北陸中日新聞 朝刊 1面

金沢城公園の自然異変 土着植物に昆虫そっぽ

 金沢城公園(金沢市)で、花にやってくる昆虫の数が在来(土着)植物で減った一方、花壇のパンジーなど最近になって植えられた園芸植物で増えていることが、金沢大自然科学研究科の大学院生宇都宮大輔さん(30)の調査で分かった。植物は、昆虫が花粉を体に付けて運ぶことでも受粉し、種や実を付けている。宇都宮さんは在来植物への訪花昆虫の減少で、従来の繁殖に影響する可能性を指摘している。(報道部・沢井秀和)

金大院生が調査、警鐘 受粉、繁殖への影響懸念 実は花壇の園芸植物に夢中



 調査は2000年から02年の4月―11月にかけて、本丸など5ヵ所で実施。全国都市緑化フェアの開催に伴って01年秋からパンジーなど園芸植物が植えられた花壇2ヶ所も対象にした。7―10日間隔で宇都宮さんが訪花昆虫を網で採取し、専門家が種類を調べた。調査費は日本自然保護協会が助成した。
 その結果、シロツメクサ、ニワゼキショウなど在来植物に飛来した昆虫は2000年の338匹から02年には30%減の236匹に。逆に、サルビア、ポーチュラカなど花壇の園芸植物へは、49匹から470匹に急増した。
 2000年に在来植物を訪れた昆虫29種をみると、02年に在来植物だけを訪れたのは9種に減少。セイヨウミツバチなど6種は園芸植物に移り、ケブカハナバチなど4種は双方を訪れた。
 こうした変化で、影響が懸念される在来植物も出てきた。例えば、初夏に白い花をつけるオドリコソウ。花びら下部で出るみつを集めるため長い花筒を往復し受粉を促すケブカハナバチが、2000年の29匹から02年には1匹となった。
 宇都宮さんは「オドリコソウにとってケブカハナバチが来ないことは死活問題につながる」と懸念。「花壇の園芸品種には、花が集積してあり、みつや花粉をとる効率がいい。花壇は日当たりも良く変温動物の昆虫にとって環境もいいのだろう。今後も花壇の園芸品種を植えてどんな影響が出るのか、長期的に観察する必要がある」としている。

公園の自然貧弱に 指導した金沢大の中村浩二教授(生態学)の話

 北陸在来の植物や昆虫が多様に生息していた金沢城公園の自然がかく乱されていることを裏付けた。公園の自然が気づかないうちに貧弱化していることに、住民は注意を向けるべきだ。

継続調査に期待 石川県公園緑地課の話

 都市公園の整備とともに指摘される環境の変化は考えられる。変化の動向をつかむことは大切。引き続き、金沢大に調査、研究していただくことはありがたい。






平成17年2月17日 北陸中日新聞 朝刊 17面

石川の食」で公開講座 大学連携協 金沢で27日 日本海の恵み軸に

 石川県内の大学でつくるいしかわ大学連携促進協議会などが27日午後1時から、金沢市広坂の市民公開講座「日本海の環境と石川の食文化」を開く。
 県内19の大学などの高等教育機関によるいしかわシティカレッジの事業の一環として行う。一般社会人、学生、研究者を対象に、県外からの研究者、経済人を招いた講演会、シンポジウムを開くことで、各高等教育機関の連携を深めるのも狙い。
 講演のテーマは「日本海の環境」「日本海交易と昆布」「日本海の水産資源と食文化」「米と水の酒文化」。パネルディスカッションも予定する。入場はいずれも無料。
 また、協議会は3月26日、金沢市の県立音楽堂邦楽ホールで、7大学15サークルが参加する合同演奏会も開催する。参加大学は金沢大、金沢医大、金沢工業大、金沢星稜大、金沢学院大、金城大、石川高等専門学校。






2005年(平成17年)1月4日 北陸中日新聞

「環日本海機構」金沢大が構築へ 中ロ韓などの環境データ一元化
経済成長の"裏側"監視 各国に政策提言も

 中国、ロシア、韓国などの大気、水、土壌などの環境計測データを一元化、解析し、各国に環境政策を提言する「環日本海環境戦略研究機構」が金沢大(金沢市)を中心につくられることになった。中国などの経済成長が著しい環日本海域で、環境を監視する枠組みをつくり、各国が良好な環境を保ちながら持続可能な発展ができるよう支援する。2月下旬にも金沢市で関係機関が集まって第1回会議を開く。(報道部・沢井秀和)

来月にも初会合

 参加するのは、国連大(東京)、国立環境研究所(茨城県つくば市)、海上保安庁(東京)、名古屋大地球水循環研究センター(名古屋市)、環日本海環境協力センター(富山市)、東アジア酸性雨研究センター(新潟市)など。
 金大では、2002年度から研究拠点づくりを目指す国の「21世紀COE(センター・オブ・エクセレント)事業」に採択され「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」(5ヵ年計画)の研究が開始。大気環境、環境放射能、陸水・気候変動、地殻・古海洋、生態系、水・土壌の分野でこれまで7億2千万円がかけられ研究が進む。海外から81の大学、研究機関が参加し、黄砂が酸性雨を中和する可能性があることや発がん物質や環境ホルモンが発生している実態などが明らかになってきた。
 これらの成果を踏まえ「戦略研究機構」を構築。ロシア科学アカデミー極東支部(ウラジオストク)の協力で水質調査を今春にも始めるなど、観測態勢が整っていない分野に調査を促したり、日本海側の各県が計測している大気などのデータを金大に集約できる態勢を整備する。集まったデータを解析し、環境の将来予測も行い、国連の北大西洋行動計画(NOWPAP)や日本の政府開発援助(ODA)に環日本海域の環境の将来を見据えた政策を提言する。緊張関係が続き政治的、経済的なレベルでは難しい国際協調の流れを環境の視点で生み出す役割も担う。
 金大は学内の自然計測応用研究センターで環境技術・管理、環境法・政策・環境部門などを新設することを検討し、環日本海域における「環境の司令塔」を目指す。既に研究者を育成するため「基礎環日本海学」の教科書づくりも進めており、中国語、韓国・朝鮮語、ロシア語に翻訳し、各国の大学で使ってもらう。
 中心になって進める金大の早川和一教授は「日本海は各国のごみ捨て場になっている側面もある。根拠のあるデータを示した上で各国に環境に配慮した政策を求めることは日本の使命。COEに採択された5ヵ年だけでなく、将来の展開を見てほしい」と話している。






平成16年(2004年)7月24日(土) 北陸中日新聞 朝刊

文科省COE 金沢大「環日本海の環境計測」
国立博物館で紹介


 世界的な研究拠点を目指す文部科学省の「21世紀COE(センター・オブ・エクセレント)プログラム」に採択されている金沢大の「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」の成果が30日から8月8日まで、東京都の上野の国立科学博物館で市民向けに分かりやすく紹介される。拠点リーダーの早川和一金沢大教授(自然科学研究科)は「子どもの来訪が多い夏休みに東京で、世界水準の研究を知ってもらう絶好の機会」と強調している。(沢井秀和)

30日から 子どもにわかりやすく

 展示は全国の大学が進める最先端の研究に触れるシリーズで2年前からスタート。これまで佐賀大、東北大、東京農大が実施している。今回は2002年度にCOEに採択されてロシア、中国、韓国などの研究機関をまきこんだ環日本海の環境問題に取り組む金沢大グループが選ばれた。
 テーマは「環日本海−森・海・空のメッセージ」。「森」の分野では、温暖化に伴い、ドングリの森が枯れる病気が日本海側で広まっている現象に焦点を当て、対策も提示。「空」では化石燃料の燃焼によって放出される発がん物質を高感度で測定した最新の結果を報告する。「海」では重油流出した際の環境復元へのアプローチを紹介する。
 イラストや写真をふんだんに採り入れたパネルを用意するほか、化石のクリーニングなどの体験コーナーも設けられる。
 金沢大は「小学生も理解できるよう十分配慮した内容。今後、県内での展示も考えたい」としている。






2004年(平成16年)3月1日(月) 北陸中日新聞 朝刊 12面
いしかわ総合 地域のニュース茶の間の話題


「環境管理 市民関心を」 金大など初の国際シンポ開幕

 
  環境管理をテーマとした国際シンポジウムが29日、4日間の日程で金沢市の県立生涯学習センターで始まった。世界水準の研究拠点づくりを目指す文部科学省の「21世紀COEプログラム」に採択された金沢大、国連大学高等研究所、「いしかわ国際協力研究機構」が初めて催し、市民や研究者約160人が参加した。
 討論では、環境カウンセラーの服部美佐子さんが「現行の容器包装リサイクル法では、自治体がリサイクル費の多くを負担しており、リサイクルするほど負担が重くなる。処理費を商品に組み入れ、生産者が負担すれば、生産段階で工夫が出てくる」と提起した。
 国連環境計画のハリ・スリニバス企画官は「ハンバーガー1つを作るのに計5000リットルの水が使われる。複雑な水の保全について市民が考えるきっかけになる」と訴えた。金沢大の早川和一教授は「地域のコミュニケーションが息づいている地方にこそ、ごみ問題を解決する新しい展開があるのでは」と話した。1日からは、研究者を中心に議論を深める。(沢井 秀和)






2004年(平成16年)2月 北陸中日新聞 朝刊

金大と国連大 連携加速 「環境研究 世界に還元」

 金沢大(金沢市)は国際連合大(本部・東京都渋谷区)との連携を加速している。国連大の推薦を受けた日本学術振興会の特別研究員が金大の自然科学研究科に配属されたほか、29日から4日間の日程で金沢市で国際シンポジウムを初めて共催する。石川県や金沢市の後押しを受けて、共同研究などでさらに関係を深める方針。(報道部・沢井 秀和)

特別研究員受け入れ 金沢で29日国際シンポ共催



 昨年11月から、金大で研究しているのはモロッコ出身のモハメド・エルラジ博士(33)。東北大で博士号を取得し、特別研究員として次の活躍の場を探していたところ、世界水準の研究拠点を目指す文部科学省の事業「21世紀COE(センター・オブ・エクセレンス)プログラム」で、地殻変動などの研究に取り組んでいる金大の荒井章司研究室の門をたたいた。
 エルラジさんは「地球温暖化を防ぐために二酸化炭素を減らす方法を見つける足がかりにしたい」と抱負。荒井教授は「二酸化炭素は地球全体でリサイクルを繰り返しており、その研究は地球の形成過程を解明する上で重要」と激励している。
 一方、県と金沢市が国際機関の誘致を進めた結果、国連大と県国際交流協会が協定を締結。1996年に「いしかわ国際協力研究機構」を開設し、国連大の研究者を所長として迎えている。
 「日本海域の環境」をテーマにした金大のCOEプログラムが2002年度から5ヵ年計画で始まり、環境を専門とするパブロ・マルティネス氏が昨年3月に国連大から所長として派遣されたこともあり、連携を模索。マルティネス所長が金大で講演するなど地元研究者と交流を深めている。
 シンポは、これらを集大成する形で開く。国連環境計画(本部・ケニア)の企画官のほか、中国、ロシアの研究者も参加。29日は午前10時から金沢市の県立生涯学習センターで開幕し、3月1日以降は金沢市アートホールに移り、議論を深める。
 COEプログラムのリーダーを務める金大の早川和一教授は「東アジアは経済発展が著しく環境も変化している。現状をつかみ、将来を予測し対策を講じることが求められる。国連も持続可能な発展がテーマで、それを実証する場が東アジアで、私たちの目的と合致する。研究成果が国連を通じて、世界に還元されるように力を入れたい」と強調している。

国連大 東京に本部を置く国連の研究研修機関。フィンランドに世界開発経済研究所、オランダに新技術研究所など各地に研究所があり、東京には高等研究所が東京都の支援で1996年に開設された。活動資金は日本をはじめ世界各国が拠出している。






2003年(平成15年)2月7日 北陸中日新聞 朝刊

ディーゼル車の排気粉じん 男性ホルモン作用抑制
前立腺がん増加など 環境ホルモン実態に迫る


 トラックなどのディーゼル車から出される排気粉じんに、男性ホルモンの作用を抑制する働きがあることが、金沢大学薬学部衛生化学グループの早川和一教授や木津良一助教授らの研究で分かった。グループは今後、原因物質を特定するとともに中国、ロシアの研究者に呼びかけて、ディーゼル排気粉じんや大気浮遊粉じんの作用などを調べる。子宮内膜症や前立腺がんなどが増えていることや、雄の雌性化など性分化といった異常に関係が深いといわれる環境ホルモン(内分泌かく乱物質)の実態に迫る研究成果として注目されそう。

金大グループ研究で判明

 グループは、ヒトの前立腺がん細胞を24時間にわたって、ディーゼル車の排気から抽出した物質にさらし、通常の細胞と、男性ホルモンの作用程度を比較。作用の程度を示す指標として、これら細胞にホタルが発光する遺伝子を組み込み、その発光量で男性ホルモンの作用の程度を調べた。1サンプルで同じ実験を6回行い、平均値を出した。
 この結果、抽出物にさらした細胞では、男性ホルモンの割合は通常の細胞に比べて80―40%だった。割合が最も低かったのは、旧式の大型ディーゼル車から捕集した排気粉じんの抽出物だった。ディーゼル車の排気には、発がん性が指摘されるベンゾピレンなど数千種類の化学物質が含まれているとされ、グループは作用する成分の特定に着手した。
 データを分析した木津助教授は「ディーゼル排気粉じんは大気汚染物質の一つ。環境ホルモンの作用を詳細に研究したい」と話す。早川教授は「文部科学省が世界最高水準の研究拠点づくりを目指して本年度に設け、採択された金沢大の21世紀COEプログラムの主要テーマとして国際的に取り組みたい」と意気込んでいる。

環境ホルモン 人工的に作られた化学物質で、ホルモンと似た作用があり、微量でも生物機能に影響を与える。男性の精子生産の低下との関連も指摘され、金沢大病院泌尿器科でも調査している。雌または雄の生殖器官の発達不十分、雌の雄性化、雄の雌性化などの性分化異常に関連があるとされる。イボニシやバイ貝などの巻き貝は雌の雌雄両性化、ワニの雄の生殖器が発達不十分になることが知られている。






2002年(平成14年)10月30日 北陸中日新聞 朝刊

文科省 COE交付額を決定 名大7件採択、7億1600万円

 文部科学省は29日、先駆的な大学の研究に予算を重点配分する「21世紀COEプログラム」に採択した50大学、113件に対する本年度の補助金交付額を決めた。
 交付額は約167億円。最高額は、京大の「環境調和型エネルギーの研究教育拠点形成」で3億2300万円。次いで金沢大「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」の3億800万円、奈良先端科学技術大学院大「フロンティアバイオサイエンスへの展開」の2億9200万円など。最小額は愛知大「国際中国学研究センター」の1100万円。
 大学別合計額の上位は、11件が採択された京大の19億5800万円、同じ11件の東大が18億5300万円。7件が採択された大阪大が12億5600万円。この3校だけで全体の30%を占め、5件採択の慶応大が9億3100万円と続いた。
 名古屋大は「分子機能の解明と創造」など7件が採択され、補助金額は計7億1600万円で東北大に次いで7位だった。
 国公私立別では国立大が計130億200万円で全体の78%公立は3%に当たる計5億3200万円、私立は19%に当たる計32億900万円で、採択件数とほぼ同じ割合だった。補助金は5年計画で交付されるが、各年度の研究の進み具合などによって交付額を増減する。







2002年(平成14年)10月3日 北陸中日新聞 朝刊

大学COE「最先端」「地道」研究実る 中部から9校16件採択



 文部科学省が2日発表した「21世紀COEプログラム」(全国の50大学、113件)に、中部9件では9大学の16件が採択された。旧七帝大のプログラムが目立つ中、地方大学や独自色を出した私立大の先端的な研究も入っている。
●地方国立大
 繊維研究の蓄積を持つ信州大。白井汪芳繊維学部長は「繊維は人間生活を支える基本分野。ナノファイバーなど最先端の研究が期待されといると思う」と今回の選定の意味を強調。森本尚武学長は「今後は国際競争に勝てる大学にしたい」と期待感を見せた。
 岐阜大の野生動物研究は、獣医学科が力を入れてきた。黒木登志夫学長は「地方大学の地道な研究が認められた。大変な名誉」。現在は農学部に獣医学科があるが、他大学との統合で獣医学部を新設する方針。今回の採択が追い風になるとみられている。
●単科大
 国立大再編・統合の嵐の中、単科大での存続を表明する名古屋工業大は、セラミックス科学の分野で選ばれた。柳田博明学長は「小さな大学でも良いプログラムを示せば通る。旧帝大中心の在り方に風穴を開けた」。「ものづくり」の理念を強調するため“学長の英断”で1本に絞って申請。学長も研究メンバーに名を連ねた総力戦だった。
 豊橋技術科学大からは2件の採択。採択プログラムを引っ張った石田誠教授は「大学が創設以来、力を入れてきた分野で実績が評価された」、平石明教授は「大学のイメージアップにもなり、非常に喜ばしい」と話している。
●私立大
 名城大と愛知大が選ばれ「私学でも特徴ある研究を示せば評価される」と意を強くする。名城大は、ともにノーベル賞候補とささやかれる飯島澄男、赤崎勇両教授をメンバーに、世界中が注目するナノテクノロジー(超微細技術)の新産業創出に向けた世界拠点づくりを打ち出した。網中政機学長は「数ある大学の中から選ばれて、大変な名誉。感動している」。
 愛知大は「現代中国学部」の設置など中国研究に大きな特色を持つ。世界にも例のない中国学の国際センター構想が認められ、竹田信照学長は「個性をさらに発展させたい」。
●7件採択の名大
 名古屋大の松尾稔学長は「全力の取り組みで予想以上の結果が出た」と満足げ。旧七帝大の中では、東大と京大の11件に次ぎ、阪大と並んで3位。とかく地味なイメージの名大だけに、存在感をアピールする格好の材料になりそうだ。
●残念
 三重大は、生命科学などの3分野に申請したが、選に漏れた。菅原庸副学長は「最大限の努力をした。残念としか言いようがない」と悔しがる。一方で「申請したプロジェクトは今後、外部資金の導入で独自に進める。来年も応募する」という。


金大など5分野113件選定 21世紀COEプログラム委 環日本海の環境計測

 大学に世界的な研究拠点づくりを目指して予算を重点配分する文部科学省の「21世紀COE(センター・オブ・エクセレンス)プログラム」で、日本学術振興会などでつくる同プログラム委員会(委員長・江崎玲於奈芝浦工業大学長)は2日、生命科学など5分野で金沢大など国公私立50大学の研究プログラム113件を選び、同省に報告した。
 プロジェクトはもともと、遠山敦子文科相が提唱した「トップ30大学構想」からスタート。これを反映してか、選ばれた総件数の4割を「旧七帝大」が占めた。
 金沢大が「学際・複合・新領域」分野で選ばれた研究「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」は、日本海沿岸と対岸の北東アジアの環境変動に関するデータを集積し、自然保全や災害防止に役立てる試み。国内外の大学とも連携した環境計測の情報ネットワーク構築も計画する。
 1997年に日本海で発生したロシアタンカー重油流出事故の調査をはじめ、日本海沿岸の酸性雨の測定、石川県小松市の旧尾小屋銅山の地下を利用した低レベル放射能実験などの研究業績をアピール。多角的に環境変動を調査し、大気や地質変化などを予想、社会資源として役立てる。
 研究スタッフは理、工、薬系の大学院「自然科学研究科」の地球環境科学専攻の教官20人。総合大学のメリットを生かし、学際的に知を集めて高精度な調査を目指す。


北陸の大学二危機感21世紀COE日本海側2件「地方の切り捨て」

 2日発表された文部科学省の21世紀COEプログラムの選考結果は、旧帝大を中心に規模の大きな国立大が強さを見せた。半面、プログラムの「空白地帯」は福島や千葉など20件に上り、日本海側からの採択は、金沢大と長岡技術科学大の2件だけ。「地方の切り捨てにつながる」など北陸の大学関係者から懸念の声が広がった。

研究確保に“悪影響”

 「1つですから、あまりコメントできない。もっと頑張らなきゃという思いが強い」。2日会見した金沢大の林勇二郎学長は、悔しさをにじませた。5分野すべてに申請して採択されたのは1件のみ。ある教授は「採択の正否は若手研究者の確保で大きな差がつく。拠点大に優秀な人材が集まり、大学の二極化につながる」と見通す。
 富山県内では、富山大が環日本海の環境科学など2件、富山医薬大が東西医薬学統合の1件を申請したが、認められなかった。富山大の滝沢弘学長は「地方で、出ている芽を育ててほしかった。富山県内から1つでも通してほしかった」と唇をかんだ。富山医薬大の高久晃学長は「残念だったが、東西医薬学の統合をさらに推進し、研究の活性化を図りたい」とコメントを出した。
 早くも次をにらむ動きも。北陸先端科学技術大学院大(石川県辰口町)の吉原経太郎副学長は学内全体が取り組む研究テーマを絞り、来年度の準備に近く入る方針。金沢工大(同野ヶ市町)も「研究者の養成という視点が欠けていた」と不採択理由を分析し巻き返しの計画を練る。
 一方で、「予算の重点化は、研究者が特定分野に偏る。果たして教育機関としてふさわしいのか」と制度に疑問を投げ掛ける声も出ている。