環日本海域での黄砂による有害物質の運搬と堆積
佐 藤 努 |
中央アジア内陸部の乾燥地帯から,卓越した偏西風に乗って飛来してくるレス(風成塵)降下物は黄砂と呼ばれています。その黄砂の飛来は,環日本海域の環境にとって,功罪両面から注目を集めて来ました。そのため,現在までは,黄砂の起源や黄砂それ自身の飛来量,主成分鉱物に関して精力的に研究されてきました。しかし,微量に含まれる微細な物質(粘土鉱物,(水)酸化物,有機物など)は,高い化学反応性や巨大な比表面積を有することから,大気圏,特に対流圏で様々な反応や運搬役として重要な役割を果たしていると予想されるのにも関わらず,ほとんど注意が向けられてきませんでした。これらの微細な物質の含有量が,石英,方解石,長石などの主成分鉱物に比べ,非常に僅かであったことが大きな理由かもしれません。
我々は,放射性廃棄物地層処分の安全評価や鉱山廃水処理の観点から,地層中や廃水中でのウランやヒ素などの有害元素の物質移行を精力的に研究してきました。その多くの研究事例で,有害元素の移行挙動が,粘土鉱物や鉄を中心とした(水)酸化物などの微細鉱物との相互作用によって決定されていることを示してきました。また,それら微細鉱物の表面反応特性を室内実験により定量的に理解することを通して,極少量含まれる場合であっても,全体の移行挙動を決定しうる重要な媒体であることも示してきました。
以上のことから,石炭火力発電所やディーゼルエンジン車から放出され,発がん性や内分泌かく乱作用を有すると考えられている多環芳香族炭化水素と有害重金属元素に対象をしぼり,エアロゾルや湖沼堆積物中の分布や含有量,黄砂含有物質との相互作用の解明を通して,運搬・堆積を担う物質の特定や環日本海域における環境動態の把握に努めています。