大気汚染物質の内分泌撹乱作用
木 津 良 一 (同志社女子大学・教授) |
今日の主要な大気汚染物質は大気浮遊粉じん(SPM)であり,肺癌や喘息など呼吸器系の疾患との関連から注目されています.一方,ヒトや野生動物において性の分化,成長,知能の発達などを障害する性質を持つ環境汚染物質(内分泌撹乱化学物質又は環境ホルモン)が大きな環境問題になっています.私達は世界に先駆けてSPMの内分泌撹乱作用について研究し,SPM中には性ホルモンの作用を抑制する内分泌撹乱物質が含まれること,その物質の一つは多環芳香族炭化水素であること,などを明らかにしてきました.
上記研究から石油燃焼に比べて石炭燃焼で発生するSPMの方が強い内分泌撹乱作用を示すことが示唆されました.ロシア,中国など環日本海の大陸側の諸国では,大きな人口を抱えて産業や経済が急速に発展しています.これら産業及び経済活動を支えるため石油・石炭の消費量も増加しており,環日本海記の大気環境の悪化が呼吸器系の疾患ばかりでなく,内分泌系の異常につながることが懸念されます.
本研究では,環日本海域における大気汚染がヒトの内分泌系に及ぼす影響を明らかにすることを目的として,内分泌撹乱作用の高感度で迅速なアッセイ法の開発,大気内分泌撹乱作用の評価,内分泌撹乱機序の解明,大気中濃度の分析,ヒト曝露評価の研究を進めています.