環日本海域の環境変遷と海生・陸棲生物群集の成立
教 授 神 谷 隆 宏 自然科学研究科 環境科学専攻 |
日本列島がアジア大陸から分離し,現在のような日本海の形成に向けて動きだしたのは今から約1600万年前のことだといわれています。これ以降現在に至るまで日本海やその周辺域は様々な環境変動を受けてきました。冷涼な気候を基調とする中で,例えば1500万年前,1400万年前,1100万年前には暖流(黒潮)が奥深く侵入した温暖期が訪れました。また200万年以降になると数万年の短周期で温暖期(間氷期)と寒冷期(氷期)がくりかえすようになりました。これに対し多くの海生生物が絶滅し,また一方で進化・適応放散したことも知られています。
私の研究室では貝形虫という微小甲殻類に注目し,いつ,どんな環境を背景に,どの海域でどんなタイプの進化が生じたのかを調べてきました。その結果いくつかの節目の「進化イベント」を段階的にへて現在の群集の成立した過程が明らかになりました。ことに200万年以降に生じた,現在の多様性をもたらした進化には縁海特異性が大きく関与しており,これに「縁海ポンプ効果」と名付け,モデル化しつつあります。
本研究では,これら海生生物の進化・絶滅に日本海がはたした役割をさらに追求するとともに,陸棲(淡水生)の貝形虫の分布,進化,絶滅現象と比較することで,その本質をより鮮明にすることをめざします。またこれらの基礎研究により,貝形虫が過去・現在・未来の環境指標のすぐれたセンサーとして有効利用できるようになることはいうまでもありません。