環日本海地域の森林衰退と森林病虫害
助 教 授 鎌 田 直 人 自然科学研究科 非常勤講師 |
森林は人間や自然に対してさまざまな機能を果たしていますが,すでに地球上の森林の半分が失われてしまいました。森林伐採に加え,大気汚染や分断化によって,森林の健全性が損なわれています。森林衰退の最も大きな原因が人間活動であることは疑いがありませんが,台風・洪水・干ばつ・病害虫・火事など,自然要因によっても森林衰退は引き起こされます。私達は,病害虫による森林衰退について研究しています。
日本では,マツノザイセンチュウによってマツが枯れる松くい虫と,アンブロシア菌によってナラ・カシ類が枯れるナラ枯れが,深刻な森林衰退を引き起こしています。ふたつとも外国からの侵入病害と考えられており,いったん侵入すると林分に壊滅的な打撃を与えます。1980年以降,ナラ枯れは日本海側の地方を中心に発生してきました。私達は,地域レベル,ローカルレベル,林分レベルという3つのスケールで,ナラ枯れの拡大をモニタリングしています。ローカルレベルの解析にはリモートセンシングデータも利用しています。GISを使って被害拡大パターンの解析を行い,被害拡大を予測するモデルの構築を進めています,これまでのモニタリングの結果から,石川県におけるナラ枯れの拡大速度は年に約10kmと推定されています。私達は,ナラの木の辺材部に形成された壊死変色部に蓄積するガロ酸という物質が,媒介昆虫が木に穿孔するのを防止する働きがあることを発見しました。現在は,生物由来の生理活性物質を使った環境にやさしい防除法の開発を進めています。