環日本海域の大気環境:
黄砂を使った日本海上での大気質変化の評価
教 授 岩 坂 泰 信
自然計測応用研究センター |
アジア大陸の東に日本海を挟んで位置している日本列島は,この地域の大気環境を考える上で得がたい場所に位置しています.大陸性の大気が海洋性の大気と(あるいは,その逆に海洋性の大気が大陸性の大気と)ぶつかり,はじめに持っていた大気の性質を変えてゆく過程は,大気変質の代表的なものとして以前から研究されてきました.中でも注目されてきたのは,乾燥した大陸性の大気が洋上に出て次第に湿度を高める過程であります.その過程の初期段階をじっくり研究する位置に日本列島があるのです.
しかし,今では,大気中の水分だけでなくさまざまな物質が注目されるようになってきています.なかでも,黄砂粒子は際立って注目を集めている物質であります.というのは,この物質は大陸性大気に多く含まれていて,大陸起源のさまざまな物質の大気中での動きを知る上でよいトレーサとなること,大気中に浮遊している間にさまざまの気体と粒子表面反応を生じ,生成物を表面に蓄積することが知られるようになったからであります.これらの反応は,東アジアから西太平洋にかけて種々の物質の生物地球化学的な循環に影響を与えると考えられています.硫黄や窒素の循環は,気候変動や地球温暖化を支配する重要なプロセスとされているだけに,この2つの組成と黄砂との関係には興味を寄せる研究者は多いです.
21世紀COEでは,このような黄砂の大気中での振る舞いを明らかにするとともに,日本海上空でどのような変質過程が進行しているのか,あるいは変質した黄砂がどのようにして日本海や日本列島上に沈着しているのかを明らかにするために,中国各地や日本各地で気球や航空機を使った観測を行っています.